勧酒
さよならだけが人生だ。
──勧酒──
リオウの城の展望台から下を見ると目もくらむような高さなのだが、同じぐらい景色も美しい。昼もそうだが夜は城の灯が余計にそれを引き立てる。
「またここで呑んでるの?」
冷たい声音に振り返れば、ルックが両手を腰に当てた、所謂仁王立ちのポーズで立っていた。石板の前を留守にしてきて良いのだろうかと惚けたことを考えながら適当に答える。
「月見酒と、たまには洒落込みたいんだよ」
「君の場合、いつも月見酒だろ」
晴れた夜にしか呑まないから。
すぱっと切り返され、苦虫を噛み潰したような顔を背ける。
背中からは、はぁと大仰に溜め息を吐く音が聞こえた。
「──リオウが捜してる」
だがルックのその一言で、ティルは伏せていた顔を上げる。
「リオウが?」
やれやれと言わんばかりの体で、二度目の溜め息を吐かれた。
「これだから君は……いろんな人から愛想尽かされるんだよ」
その言葉に含まれた意味とあまりの口調に、ティルは思わず笑ってしまった。
一方笑われたルックは、どこか釈然としない面持ちで、しかし何も言わずティルを見ていた。
「…………愛想、か。はは、その通りかも」
一通りの下らない言葉遊びの後、話題は元に戻る。
「たとえば?」
「うーん……ルックは誰だと思う?」
「そうだね。たとえばあのテッドって奴とかグレミオってのとか……君の父親とか」
言い終わり、ルックはにやりと笑う。
ティルはしばらく目を瞬かせていたが、ゆるりと表情を変えた。そして右手に持ったままの杯を掲げ、
「一緒に呑まない?」
何の含みもなく笑った。それからすぐ
「あ、でも僕リオウのとこに行かなきゃいけないから一杯だけで良いよ」
訂正するように、だがあまり急いだ様子はなく言い切った。
ルックは目をパチパチさせて苦笑気味に呟く。
「人待たせてるって自覚があるのに? そんなんじゃいつか、リオウからも愛想尽かされるよ」
ティルがその通りかも、と言いながら酒で満たされた杯をこちらに寄越すのを見て、度胸あるねとルックは笑った。
展望台で二人して酒を飲みながら、今思い出したかのようにルックが言う。
「僕まだ未成年なんだけど」
酒を飲み干し、リオウのところに行くのか立ち上がり階段を今まさに降りようとしていたティルは一旦足を止め、
「大丈夫。僕もまだ未成年」
振り向かないルックの背に一言だけ投げ掛け、階段を降りた。
その際ルックが笑った気配がしたのは、気のせいではないだろう。
僕は一人だけ知っているから。君の方から愛想を尽かすことのない人物を。