agapee
目が眩むような朝焼けで、いつもよりも早く目が覚めた。うんざりするほどに太陽が煌めいた昨日から一転、肌を舐めていく生暖かい風を纏って、雨雲がこちらに近づいてくるようだった。
上体を起こしてカレンダーに目をやる。「ああ、そうか」。そこで思い出すのをやめる。あえてその特別性には触れない。祝ってくれる家族(ひと)がいなくなってから、ずっとそうしてきた。自分の生まれた日を認識することは、同時に、孤独までも認識することのような気がした。自ら死に近い仕事に就くことで曖昧にしていた境目が明確になり、自分は独りなんだ、と思い知らされる。いくつになっても、心臓がすぅ、と冷えていくこの感覚には耐えられなかった。
キィ、と、白塗りの扉が開く音がした。「刹那?」と名を呼び、視線を向ければ、そこには寝間着のままの彼が。自分とは違う、浅黒い肌にごわつく黒髪。こんなナーバスなときでさえ、愛しいと思えた。
「こっちへ来るかい?」
刹那はゆっくりと私に近寄り、私の隣に腰掛けた。
「おはよう」
挨拶代わりのキスを交わそうと、刹那の頬に手をやる。さぁ、瞼を閉じて…
「今日は、誕生日だと聞いた」
閉じかけた目が見開いた。
忘れていた言葉。
忘れようとしていた言葉。
触れない言葉。
触れたくない言葉。
なのに。
「どう、して…?」
哭きたくなるような、苦しさ。
わかりたく、ない。
動揺する私に驚く様子も見せず、刹那が口を開いた。
「俺も…そうだった…」
寝間着の袖を掴まれ、思い切り引き寄せられる。私はされるがままに、彼に抱き締められた。指先が微かに震えていた。
「でも、違う…。俺は、グラハムがいてうれしい…」
「……うれしい?」
思考を止めるように唇に触れる、熱。
苦し紛れの呼吸が、熱を持った吐息と混ざる。
散々私の口腔内を乱して、ゆっくりと熱い唇が離れた。
「せつ、な…っ?」
「言葉よりも伝わるものがある…と、教わった」
淡々とそう言ってから、刹那がふ、と口元を緩めた。
「誕生日おめでとう」
お前がいてくれてよかった、と真面目な顔で言われ、思わず笑みがこぼれた。苦しいはずの言葉で、たまらなく幸福な気持ちになっていた。
「た…淡白な君も可愛いが、積極的な君も非常においしいぞ!」
彼の肩を鷲掴みにして、そのままぎゅっと抱き寄せた。
「お、い…グラハム、苦しい…」
上体を起こしてカレンダーに目をやる。「ああ、そうか」。そこで思い出すのをやめる。あえてその特別性には触れない。祝ってくれる家族(ひと)がいなくなってから、ずっとそうしてきた。自分の生まれた日を認識することは、同時に、孤独までも認識することのような気がした。自ら死に近い仕事に就くことで曖昧にしていた境目が明確になり、自分は独りなんだ、と思い知らされる。いくつになっても、心臓がすぅ、と冷えていくこの感覚には耐えられなかった。
キィ、と、白塗りの扉が開く音がした。「刹那?」と名を呼び、視線を向ければ、そこには寝間着のままの彼が。自分とは違う、浅黒い肌にごわつく黒髪。こんなナーバスなときでさえ、愛しいと思えた。
「こっちへ来るかい?」
刹那はゆっくりと私に近寄り、私の隣に腰掛けた。
「おはよう」
挨拶代わりのキスを交わそうと、刹那の頬に手をやる。さぁ、瞼を閉じて…
「今日は、誕生日だと聞いた」
閉じかけた目が見開いた。
忘れていた言葉。
忘れようとしていた言葉。
触れない言葉。
触れたくない言葉。
なのに。
「どう、して…?」
哭きたくなるような、苦しさ。
わかりたく、ない。
動揺する私に驚く様子も見せず、刹那が口を開いた。
「俺も…そうだった…」
寝間着の袖を掴まれ、思い切り引き寄せられる。私はされるがままに、彼に抱き締められた。指先が微かに震えていた。
「でも、違う…。俺は、グラハムがいてうれしい…」
「……うれしい?」
思考を止めるように唇に触れる、熱。
苦し紛れの呼吸が、熱を持った吐息と混ざる。
散々私の口腔内を乱して、ゆっくりと熱い唇が離れた。
「せつ、な…っ?」
「言葉よりも伝わるものがある…と、教わった」
淡々とそう言ってから、刹那がふ、と口元を緩めた。
「誕生日おめでとう」
お前がいてくれてよかった、と真面目な顔で言われ、思わず笑みがこぼれた。苦しいはずの言葉で、たまらなく幸福な気持ちになっていた。
「た…淡白な君も可愛いが、積極的な君も非常においしいぞ!」
彼の肩を鷲掴みにして、そのままぎゅっと抱き寄せた。
「お、い…グラハム、苦しい…」