敢えて貴様に問おう。
決して「悪い」と叫べることではないけど、
──敢えて貴様に問おう。その命、永らえさせて何の得があると言うのだ。俺にとっても貴様にとっても死して華となるも善しとされた時代すら生き延びながら、何故今になって死を望む?──
余りにも唐突だと笑い飛ばしたくなったが、
「多串くんはさ、何で生きてるの」
それはできなかった。
理由なんかない。訊かれても分からない。気付いたら生きていたから。
今まで何度も死にそうな目には遭ってきた。けれどその都度、幸運にも助かって生きてこられた。
勿論毎回そんな幸運があるとは思っていない。
次は死ぬかもしれない。次は死ぬかもしれない。今度こそ、死んでしまうかもしれない。
「生きるのって、ものすごい確率で不可能なんだよね」
不可能なんてなかった。自分が死ぬ前に相手を倒すだけの技術は持っている。敵に情けをかけず斬り捨てる覚悟も、持ち合わせている。
普通に生きていれば誰でも天命を全う出来ると信じていた頃があった。
ひどく幼い頃は生きている実感も、疑問も不思議すら抱かずただ「生きて」いた。
飢えて死ぬことも病で伏せることもましてや誰かに殺されることもあるなど知らずに。
「死ぬ機会なら幾らでもあった。チャンスは何度も訪れたのに、まだ生きてる。
ねぇ、多串くんは、どうして生きてるの?」
「さぁな」
考えたこともなかった。
「だったら」
生きるのは当たり前。そう思っていたから。
「お前はなんで生きてるんだ?」
こんなに真剣に生死について考えるなんて初めてで、答えなんて返せないから代わりに質問で以って返す。
うーん、なんて唸って、そうやって考える素振りでわざとらしく顎に手なんかやって、ずぅっと前から出してた答えをお前は俺に返すんだろう。
「死にたいからかな」
存外あっさり返ってきた言葉はただならぬ空気を放つ。
あぁそうか。こいつはいつか死ぬんだろう。
納得と、漠然とした確信。
生きていれば必ず死ぬ刻が来るなんて当然のこと。俺が長い間失念していたこと。
「そうだな」
死ぬ為には、生きていなけりゃ逝けないからな。
なんて滑稽なんだ。まるで矛盾してる。
「俺も、死にたいから生きてるんだ」
それなのにすんなり受け入れられる言葉。多分きっと同じだからだ。
俺とお前が同じだから、考えることも同じなんだろう。
「良かった」と声を大にして言うこともできない。
作品名:敢えて貴様に問おう。 作家名:きじま