約束
(だれも、きみのことを)
手に残ったままの感触。
あの時、人を斬った。
(きらいではなかったよ)
罪人なら幾人でも幾度でも殺めてきたはずなのに、終ぞ慣れることはなかったその感触を。
(でも、……ぼくはきみのことを)
実は少し安心していた。
人を斬り殺すことを覚えないようにと、それだけを考えて今まで殺してきた。
だから、あの時、いつものように慣れない厭な感触が手に残ったとき、僕は、ほっとした。
まさか実際に彼を殺すなんて思ってもいなかったけれど。
(だいすきだった、きみを)
別に、彼女に強要されて彼にも否定されたから、だから斬ったんじゃない。
あれは僕自身の意思だった。
彼はいつも優しかったから、今回もやっぱり優しいことを言ってくれたんだ。
僕は僕のために、彼の意志を汲まなければいけなかった。
たぶん彼は、僕がそうするって分かってた。
自分が何をどう言えば僕が動くのか、知り尽くしている彼らしい行動。
少し憎らしい。
だけれど、これで良かったんだ。
だって僕はまた、優しい君に会えるんだから。
(すこし、わずらわしいとおもってしまったんだ)
ねぇ、玄冬?
また君に、会えるといいな。