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彼と彼女の邂逅

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ああ、この子なら、




そう迷うこともなく、存外あっさりとそこに辿りついた。
いわゆる路地裏、いわゆる不良の溜まり場。しかしそこに不良の姿はなく、代わりに血に塗れ、斬りつけられたのかボロボロになったセーラー服を纏った少女がいた。
それはもう手酷くやられたようで、袖から僅かに覗く手も、今時の高校生にしては些か長めに感じるスカートから伸びた足も、陰になって分からないが恐らくは顔も、赤い血や青いアザに彩られている。



――女子高生が男子高生数人と殴り合いを演じていると通報があったのがほんの十数分前。ちょうど外回りで、最も現場に近いところにいたという理由で向かわされた僕が現場に着くと、既に乱闘の当事者たちはいなくなっていた。どうやら男子高生が通報されたことに気付いて、自分が来る前にさっさと逃げてしまったらしい。同時に女子高生の方もふらりと行方をくらましたらしい。最近の子どもは、逃げることには特化しているようだ。
通報があれど、その場に誰もいないのならもう自分の役目は終了。そもそもが部署をまたいでいるので、これ以上の深追いはする必要がない。
ところが現場の程近く、よほど注意して見なければ見落としてしまうような狭い、ビルとビルの隙間。ぼんやりと現場を見回していただけだったが、気付いてしまった。こういうところだけはきちんと警察官やってるじゃない、と何の気なしに考えながら、何となくその隙間の空間に足を踏み入れた。理由はない。
ともすれば迷子になりそうなほど入り組んでいる路地裏を、目的もなくただ歩き回ること数分。眼前の光景は、冒頭に戻る。



何故こんなところに女の子が、と思うと同時に、なるほどこの子か、と思った。
通報があった際伝えられた当事者たちの特徴。男子高生の方はなんと言っていたか忘れたが、女子高生の方ははっきりと覚えている。「灰色っぽい髪を三つ編みにした少女」。
どうして女子高生の特徴だけ覚えていたかと言えば、今日日三つ編みとはなんと古風な、とびっくりしたからだ。決して、若い女の子専門の嗜好を持っているわけではない。

汚らしいビルの壁に背を預けたままピクリともしない少女に、まさか死んでるんじゃ、と最悪の結果が過ぎったが、小さくその胸が上下しているのを認め、ほっと息をついた。
と、少女が不意に顔を上げた。
驚いて一歩引いたが、その顔を見て更に仰天した。予想に違わず顔も血とアザだらけ。よくもまあ女の子の顔をここまで殴れるな、と逆に感心してしまうほどだった。
だが一番驚いたのは、結構な怪我にもかかわらず息一つ乱す様子も痛がる素振りも見せずこちらを睨み上げてくる少女の目だった。
怖い、と思う。仮にも刑事であるから、もっと凶悪な顔の人間はたくさん見てきたし、それこそ殺人犯だって幾人かは見たことはある。しかし眼前の少女は、今までに見たどの人間より苛烈な色を宿していた。
髪と同じで色素の薄い目が細められて、明らかな警戒心と共に睨まれている。
視線を外せない。
そこで初めて、自分はこの少女に脅えているのだと気付いた。信じられないし信じたくもないが、事実だった。まるで蛇に睨まれた蛙の様に、指一本動かすことが出来ない。少しでも動いたらその場で食い殺されそうな雰囲気なのだ。
まさか。こんなガキにビビるってのは、大の大人のやることじゃねぇだろ。
突然、睨み上げるだけだった少女が壁と地べたに手をついて立ち上がった。
本来なら手伝って立ち上がらせるところだろうがそれすら出来ず、また立ち上がった少女もこちらから視線を外すことはなかった。
刑事として聞かねばならないことがあるはずなのに、声も出せない。
クソ、何ビビってんだよ、ただのガキだろ、と頭の中で渇を入れるも効果はなかった。そんな情けない自分にほとほと嫌気がさして来た頃、少女がゆっくり口を開いた。

「…見せモンじゃねえぞ」

小さな低い声は霧散することなく、確かな怒気を孕んで自分に届いた。






彼と彼女の邂逅







憎しみで人を殺せると、思った。
作品名:彼と彼女の邂逅 作家名:きじま