君を殺す夢を見た
ニルヴァーナがこんな近くにあったなんて。歓喜、焦燥、空虚。どうしようもないような感情に占拠され、胸が詰まるような苦しささえ覚えた。
「少、年…」
なぜ彼が?そんな当然の疑問が愚問に思え、私は軋むように痛む腕をのばして、黒髪の彼に触れようとした。触れようと、した…。が、届かない。
「なぜだ…?」
近づくどころか、彼はどんどん離れていく。
「待つんだ…、っ…待ってくれ!!」
盲信的に手を空間に泳がす私。彼は私を哀れみの(いや、寧ろ慈しみの、と言うべき)目で見つめ、手を差し伸べてはくれない。
「いやだ!待ってくれ!頼む…!」
私は死に物狂いで手をのばし、ついにその手首を掴む。
と、同時に、暗転するニルヴァーナ。手首とは思えない冷たい感触。生温い液体。掌を見れば、赤にまみれた眼鏡。これは…
「…ハワー…ド…?」
甦る記憶。
そうだ。彼らが、ソレスタルビーイングが、ガンダムが。友を、殺したのだ。
狂気?狂喜?私は突如、身を覆い尽くすような殺戮本能を覚えた。
殺してやる。
殺してやる。
殺してやる。
もう一度前を見据えると、そこにはやはり少年が。
ここはニルヴァーナ?そんなの構わない。私が地獄に変えてやる。
私が……!
「……ム、グラハム…」
うなされていた、と心配そうに私の汗を拭う彼の声で、私は目をあけた。
黒髪。赤い瞳。
夢を見ていたのだ、と認識するよりも速く、網膜がとらえた情報は、大脳をスルーして運動神経に信号を送ったらしい。
私は目の前の彼に襲いかかり、枕元にあった小銃を彼の額にあてた。
「赦されなくていい」
夢で見た少年が、刹那が、口を開いた。刹那はそのまま瞼を閉じ、一切抵抗しようとはしなかった。銃の照準を定めさせるように、震える私の手を彼の手が覆った。
脈動が手の甲に伝わる。
私は、手の中の凶器を投げ捨てた。
「人は撃てないよ…」
彼の上に乗ったまま子どものように泣きじゃくる私を刹那は黙って見上げ、私の手を握り締めた。
もしかしたら、ここがニルヴァーナなのかもしれない。