雨降りのお祭り
その日は雨が降っていた。
朝は、曇りがちながら晴れ間も覗く空模様だったのだが、昼を過ぎていきなり天候が崩れてしまった。
今朝いきなり、今日は祭りがあるから行くぞとギルベルトに連れられてきたため、生憎菊は傘など持ち合わせていない。
「……ギルベルトさん」
突然の雨になす術もなく慌てて非難した店の軒先で、菊は隣で服の水滴を払うギルベルトを不服そうに呼ぶ。
「なんだよ」
対するギルベルトは妙に落ち着き払って、お前ベタベタだぞ、と言いながら菊の服も同じように払った。
「天気予報では晴れるからって、だから私のこと無理やり連れてきたんでしたよね」
「おう。天気予報では、晴れるぞ」
「とてつもなく激しい雨に見舞われているのですが」
「夏だからな」
そうじゃなくて、どうして。
「それならどうして傘を持ってこなかったんですか」
言外に、雨が降ると予測できていたでしょうと、恨みがましくジト目で睨んでやる。
するとギルベルトは、何故か勝ち誇ったように胸を張ると大袈裟なくらいの仕草で手を伸ばした。伸びた手の先には、祭りに相応しい飾りの数々。商店街の屋根から垂らされたり、街灯から吊るされたり、屋根と屋根の間を走る線にぶら下がり頼りなく揺れていたり。それでも、どれも大きくて豪勢だったりやたら手がかかっていそうなものだったりと、一目見て立派だと分かる。おまけに規模が半端ではないのだ。商店街は勿論、そこに通じる大きな道にはすべてその飾りが施されている。飾り自体は素晴らしい。晴れてさえいれば、きっともっと素晴らしいものに映っただろう。
如何せん、雨に濡れていまひとつ迫力も足りてはいないが。
そしてギルベルトは手を伸ばしたまま、大袈裟な口調で言い放つ。
「県下最大級が謳い文句の飾りと、激しい雷を伴ったにわか雨がウリなんだよ、この祭り!」
とりあえず一発くらい殴っても問題ないですね。菊は握りこぶしを構えると、ギルベルトの鳩尾めがけて思い切り振りかぶった。