おとついのチップスター
女の人のはしゃいだような声で目が覚めた。
はっきりしない頭で時計を見遣れば、針は十八時二十三分を差している。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
つけっ放しのテレビでは先ほどの声の主が、増水して溢れんばかりの川沿いを歩きながら昨日の豪雨の被害を実況している。
カメラが切り替わり、見覚えのある橋が映し出された。すぐに通学路として使っている橋だと分かった。明日は別の道で行こうかな、などと考えていると、くぅとお腹が鳴った。
同居人は次の水曜まで帰ってこない。自分一人の為だけに食事を作る気にはならず、それでも何とはなしに台所へ向かう。
お腹は鳴いたが、そんなに食べたいとは思わない。同居人が買い溜めしているカロリーメイトでも戴くかとかごに手を伸ばして、そこに見慣れた赤色の筒を見つけた。一昨日買ってきたチップスター。数枚つまんだだけで満足してしまってかごに入れておいたものだ。
カロリーメイトからチップスターに照準変更。考えるより早く手は動いた。
チップスターは好きだ。味とかではないと思う。多分、国内数多のメーカーのポテチと違って均一な形で、外国メーカーのプリングルスより小さめのサイズが食べやすいのだ。
筒を手に取ると、独特の紙と塩のにおいがした。このにおいも、好きかもしれない。
これはおやつだとか、晩に食べるものじゃないとか、同居人から耳にタコが出来るほど聞かされた言葉が頭を過ぎるが、この場にいるのは自分一人。同居人の正しい言葉を、それがどうしたと聞かなかったことにした。
チップスターの蓋を開けて、封の開いている袋から一枚取り出し口に放り込むと、ふにゃ、と情けなくポテトフレークは形を崩す。
一昨日封を切ったチップスターは、昨日の大雨ですっかり湿気ていた。
作品名:おとついのチップスター 作家名:きじま