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雨はため息

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わざわざ夏期講習なんかのために、学生の貴重な休みを潰すなんてどうかしてるわ。
乗り込んだバスは私と同じ制服の子達でいっぱい。きっとみんな同じこと考えてる。だって顔が暗いもの。
一番後ろの窓際をキープ。これだけは譲れないわ。
やりたくもない勉強のためにバイトを休むなんてバカバカしい。私は勉強よりバイトの方が好きよ。
バスはどこにも停まらない。そりゃそうよね。だって外はすごい雨。誰も外には出たがらないわ。

本日六度目のため息。
何が悲しくて土砂降りの休日に勉強しに行かなくちゃいけないのかしら。

信号で止まるバスは不愉快な振動を伝えてくる。もう何もかもが、私を不機嫌にさせる要素になってる!
嫌になっちゃう。
七度目のため息は決して静かではない車内に残るほど大きくなってしまったけど、誰も他人を気にする余裕なんてないみたい。それはもちろん私もだけど。

何もかも嫌になって窓の外。
歩道橋の下に設置された真っ赤なポストがくすんだ色で存在を主張してる。こんなに目立たないところにあるなんて、いつか忘れられても仕方ないわね。
だけどポストの横に、夏だっていうのに真っ黒のスーツを着た人が立っている。
見てるだけで暑くなってきそう。ただでさえ、この雨で蒸すのよ。

傘も持たずに雨に打たれるがまま、あれじゃあ家に帰っても上がれないじゃない。
なんて知らない人の心配なんかしてみても、気分は晴れるどころか降下の一途。
降り続ける雨と私のため息、いい勝負になりそうだわ。
それにしてもどうしてスーツなのよ。バスの窓が開けられたら、すぐさま開けて「季節を考えなさいよ」とかなんとか言ってやるのに。

信号が青に変わってバスが動き出す。
角を曲がって歩道橋もポストもスーツも見えなくなって、代わりに青色の立て看板が視界に飛び込んでくる。

十一時から、セレモニーでお葬式。

なんだ、さっきのあれは、スーツじゃなくて喪服だったのね。バスの窓が開かなくて良かったわ。
どちらにしろこの雨じゃ私の声なんて届かないだろうけど。

世の中、気が滅入ることばっかりね!
作品名:雨はため息 作家名:きじま