おわりのおわり
その男は自分の名前を汚され、自尊心を踏みにじられ、
地位を剥奪されて、遂には国に身体ごと支配されてしまった。
それでも男は止まらなかった。
男をこの国に縛り付けていたのは、あの王妃だ。
多くを失った男が、一番初めに失ったものだった。
そんな男の手を引いて、この国から飛んだ皇子も今はもう、いない。
「かなしいの」
「かなしむことなど何もない」
男は酷くちいさな声で、皇子の名を呟いた。
それはアーニャの中にカサリと音をたてて積もった。なんてかなしい名前だろう。
「泣いたら、記録。しようと思ったのに。」
「アーニャ」
「おやすみ」
逃げるようにして部屋をでる。ベッドに身を沈めてから、悔いるのだ。
泣いてもいいよ、が言えない私を。
(そのかなしい名前が、男が失う最後のものになればいい)