夢の跡
前日の飲み会のせいで痛む頭を抱えながら昼過ぎにも関わらずベッドの中で沈んでいると、ベッドサイドに置いている携帯が着信を告げた。青葉はこめかみをさすり、携帯を開く。表示されている名前を見て顔をしかめるが、渋々電話に出た。
「…もしもし。」
『あっ、青葉くん!今、暇?あのね、聞いて欲しい話があるんだ。』
大きな声ではないが、耳元で喋られると頭に響く。ちょっと待ってくださいと言おうとするが、口を挟む隙を相手は与えてくれない。
青葉の二日酔いの頭には、遺跡だのピラミッドだのの情報は蓄積されずに消えていく。自分が夢中なことに関しては案外饒舌でこちらの話を聞かないのだ。この先輩は。
頭痛薬はなかったか探すために、携帯を片手に持ちベッドから身体を起こす。相槌を特に求めない人なので、喋らせておけばいいのは楽だ。
電話の相手、竜ヶ峰帝人は高校の時の先輩である。ただ、普通の先輩後輩の仲ではなかった。
帝人は今や都市伝説となったダラーズという組織の創始者であり、青葉はそんな帝人をダラーズ共々利用する為に近付いたブルースクウェアというカラーギャングの幹部だった。
互いに利用しあうだけ、そんな関係で終わるはずだったのだ。少なくとも、青葉はあの日まではそう思っていた。
『そういうわけだから、青葉くん。国際運転免許証取ってね。』
「は?」
『それないと、海外で車運転出来ないでしょう?』
「いや、それは知ってますけど。」
青葉が頭痛薬を探している間に、話の内容が世界中の不思議を追う楽しさになっていたのはわかっていたが、まさかそこに着地するとは。
(この人、俺に運転させる気まんまんなんだけど…。)
しかも、それを青葉が断るとは露とも思っていないに違いない。二日酔いで頭が痛むのもあり、多少短気になっているので苛立ちを覚える。
冗談じゃないと突っぱねてやろうか。けれど、本当にそうしたらきっと帝人はなんてことない風に謝ってから、どうでもいい他の誰かに頼むのだろう。それを想像するほうがよっぽど腹が立つのだから、自分はだいぶ終わっている。
一方的に言うだけ言って切れた携帯をベッドに放り投げ、見つけた頭痛薬を水で流し込む。
だいたい、帝人は卑怯なのだ。運転免許を取ってくれだなんて、罪悪感を引きずれと言っているようなものではないか。当時ダラーズに関わっていた面々に同じことを言えば、誰もが沈痛な面持ちになるだろう。無神経な部分があるので無自覚かもしれないが、自分に言うあたりきっと自覚はあるのだ。
青葉ならば、傷付かない。そう思っている。
帝人は知らない。ズタボロになって死んだように倒れていた帝人を見つけた時の青葉が、どれほど心臓が凍るような気持ちでいたか。病院に運ばれて一週間昏睡状態でいた帝人を、どんな眼で見ていたのか。右眼が見えなくなり極力運動をしてはいけない身体になった帝人を、直視出来なかった青葉のことなど、帝人は知らない。
だから、片眼でも眼が見えない自分では運転免許は取れないから代わりに取ってだなんて、軽々しく言えるのだ。
目覚めた帝人は、何も言わなかった。青葉にも何も言わせなかった。ただ、日常の続きのように笑うだけだった。
青葉はずっと、最後には帝人にすべて押し付けて、逃げ果せるつもりでいた。そして、実際そうなった。帝人が死にかけたことで、ダラーズは解散しブルースクウェアもチームとしての形はとれなくなったが、青葉や青葉の周囲に被害はなかった。それは、青葉の思い描いた通りの結末だった。
「…もしもし。」
『あっ、青葉くん!今、暇?あのね、聞いて欲しい話があるんだ。』
大きな声ではないが、耳元で喋られると頭に響く。ちょっと待ってくださいと言おうとするが、口を挟む隙を相手は与えてくれない。
青葉の二日酔いの頭には、遺跡だのピラミッドだのの情報は蓄積されずに消えていく。自分が夢中なことに関しては案外饒舌でこちらの話を聞かないのだ。この先輩は。
頭痛薬はなかったか探すために、携帯を片手に持ちベッドから身体を起こす。相槌を特に求めない人なので、喋らせておけばいいのは楽だ。
電話の相手、竜ヶ峰帝人は高校の時の先輩である。ただ、普通の先輩後輩の仲ではなかった。
帝人は今や都市伝説となったダラーズという組織の創始者であり、青葉はそんな帝人をダラーズ共々利用する為に近付いたブルースクウェアというカラーギャングの幹部だった。
互いに利用しあうだけ、そんな関係で終わるはずだったのだ。少なくとも、青葉はあの日まではそう思っていた。
『そういうわけだから、青葉くん。国際運転免許証取ってね。』
「は?」
『それないと、海外で車運転出来ないでしょう?』
「いや、それは知ってますけど。」
青葉が頭痛薬を探している間に、話の内容が世界中の不思議を追う楽しさになっていたのはわかっていたが、まさかそこに着地するとは。
(この人、俺に運転させる気まんまんなんだけど…。)
しかも、それを青葉が断るとは露とも思っていないに違いない。二日酔いで頭が痛むのもあり、多少短気になっているので苛立ちを覚える。
冗談じゃないと突っぱねてやろうか。けれど、本当にそうしたらきっと帝人はなんてことない風に謝ってから、どうでもいい他の誰かに頼むのだろう。それを想像するほうがよっぽど腹が立つのだから、自分はだいぶ終わっている。
一方的に言うだけ言って切れた携帯をベッドに放り投げ、見つけた頭痛薬を水で流し込む。
だいたい、帝人は卑怯なのだ。運転免許を取ってくれだなんて、罪悪感を引きずれと言っているようなものではないか。当時ダラーズに関わっていた面々に同じことを言えば、誰もが沈痛な面持ちになるだろう。無神経な部分があるので無自覚かもしれないが、自分に言うあたりきっと自覚はあるのだ。
青葉ならば、傷付かない。そう思っている。
帝人は知らない。ズタボロになって死んだように倒れていた帝人を見つけた時の青葉が、どれほど心臓が凍るような気持ちでいたか。病院に運ばれて一週間昏睡状態でいた帝人を、どんな眼で見ていたのか。右眼が見えなくなり極力運動をしてはいけない身体になった帝人を、直視出来なかった青葉のことなど、帝人は知らない。
だから、片眼でも眼が見えない自分では運転免許は取れないから代わりに取ってだなんて、軽々しく言えるのだ。
目覚めた帝人は、何も言わなかった。青葉にも何も言わせなかった。ただ、日常の続きのように笑うだけだった。
青葉はずっと、最後には帝人にすべて押し付けて、逃げ果せるつもりでいた。そして、実際そうなった。帝人が死にかけたことで、ダラーズは解散しブルースクウェアもチームとしての形はとれなくなったが、青葉や青葉の周囲に被害はなかった。それは、青葉の思い描いた通りの結末だった。