マリア、君は美しい
彼等は自身と同じくもしくはより深い紅を、その瞳を、慕いさ迷う。
帝人はその光景が異常なものだとわかっていたが、彼等の想いまで否定はしなかった。帝人とて、彼等と同じように美しい紅の瞳の持ち主を、恋い焦がれているのだから。
「僕は、斬られたくないよ。」
肩口で切り揃えられた艶やかな黒髪を揺らし、杏里が息を飲む。きっと彼女は、帝人の言葉を自身への否定ととったのだろう。帝人は眉端を下げ、杏里へと笑いかけた。
彼女は、何よりも大事な部分をわかっていない。
「だって、子どもじゃいやなんだ。」
「…帝人くん。」
「いやなんだ、園原さん。だって、僕は、僕、は、」
杏里の瞳がうっすらと幕を張り、揺らめく。それ以上は言わないでと、雄弁に語る瞳。頑なに握られた拳の反対側の手には、不自然に手のひらから生える日本刀があった。
それは鋭利に煌めき、見る者におぞましい畏怖を与える。禍々しい刀身は、そうと見えないだけで本当は赤をこびり付かせ刃こぼれしているのだろう。
だが、構わない。それすら杏里の一部ならば、帝人はただ受け止めるだけだ。
「僕は、君の隣がいいよ。庇護される側じゃいやなんだ。支配される側じゃいやなんだ。」
我が儘かなあと笑えば、杏里はらしくない勢いで首を横に振る。その際、眦から零れた雫が宙を舞い、綺麗に弾けた。
やはり杏里は美しく、それならばすべて許されると、帝人は思った。