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砂上の城

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砂上の城



 伊達軍によって乱された水路の立て直しのため、上田城の後衛隊がバタバタと駆け回る。水が引く度に運び出されていく水死体はどれも赤揃えの足軽で、少し広がった場所に並べ置かれていく藁に覆われたそれらを見下ろし、真田幸村は顔を歪める。普段傍にいるはずの忍は伊達軍の殿を追い出しに飛んでいってしまったが、残していった言葉だけが耳元で繰り返される。
 「わかっているよな、真田の大将」。猿飛佐助は有無を言わせぬ、低い声で顔だけ振り返ってそう残した。これがお前の采配の結果だ。お前がこの者たちの命を奪ったのだと言葉にされたわけではないが、幸村が思い知るには十分すぎた。
 独眼竜伊達政宗は幸村の好敵手であった。これまでに何度も刃を交え、決定的な決着がつかぬまま、お互いに満たされたものは得るものの、失うものは殆どなかった。それは、ただの一騎討ちの果たし合いであったからに過ぎない。二人が戦っている間、独眼竜の右目は隊を指揮し、幸村の背後では甲斐の虎が大斧を振い周囲を一蹴する。独眼竜と日本一の兵の戦はその中の一部であり、その戦況を左右する大きなものとも言えた。
 お互いが戦っている間は何も考えずにいられた。幸村はただ目の前の的、独眼竜さえ倒せば、それだけを見ていれば良かったのだ。他の部隊への指示は甲斐の虎が出す。小隊を預かったとしても、幸村の指示は言葉数少ない。指示を出す前に全て己で片をつける。獲物を見つければ真っ先に狩る、まさに虎の如く。
 敵と己さえわかっていればよかった。だが、此度の戦は違った。
 武田の一家臣だったはずの幸村は大将格となった。幸村の采配によって戦の勝敗が決まる。そして露見した拙さ。伊達軍相手に押しには押した。だがそれは殆ど幸村による力技だ。大将自らの陣取り、露払い。そして独眼竜との戦いには辛くも勝利したものの、交戦中の混乱で敵軍に退路を与えてしまったことは明らかな失態。
 疲弊し城壁に体を預ける武士や足軽達の瞳には光がなかった。あの、虎率いる武田軍の者達がだ。主君の病床を気にかけ、そして主君が意志を託した幸村に対し激励する者もいれば、その若さと采配の拙さで口に出さずとも不満をためている者もいる。その均衡は、もしかしたらもう崩れ去っているのかもしれない。信玄が四男勝頼はまだ真田に好意的な立場をとっているが、それがいつまで続くかはわからない。既に数々の功績を挙げ、いずれ武田の家督を継ぐことが約束されている勝頼にしてみれば幸村ほど邪魔な存在はいないのだ。それが今も尚黙しているのは、今の武田が派閥争いしていては、東か西かと騒ぎ立て、豊臣崩御をきっかけに勢力を伸ばす他の戦国大名に目をつけられかねないからだ。
 幸村の立つ高所の向こう、更に橋を渡ったところの木材の上に腰をおろし、兜を取りじっと前を見据えている勝頼を見つけ、幸村はぶるり、と戦慄した。
 「まさに砂上の城の如く…」

 水底の夢は未だ続く。
作品名:砂上の城 作家名:まつや