「修学旅行の思い出」
「折角だしって思っていつもよりご飯食べちゃってさあ」
「ああ、そう言えば結構食ってたな」
普段の円堂は基本的に回復アイテム以外の食事をしない。他はみんなで買い食いするのに混ざっているのをたまに見るけどそれくらいだ。給食の時間も暇そうにしている。
「普段行かないからトイレのタイミングわかんなくて、どうしよう」
「替えの寝巻きは持ってるのか?」
「持ってる、着替えて来る」
ぬるい闇の中で自分のカバンの中を探る円堂の背中をぼんやり眺める。布団がじわじわと冷めていく。
替えのパンツとパジャマを探り当てた円堂はそのまま俺たち以外の四人が眠り込んでいる部屋の隅で着替えはじめる。肩越しにちらりとこちらを見たので目を逸らす。太腿が思っていたよりも白い。
「風丸もこっち来てくれよー」
「なんでだよ」
「心細いじゃん」
右手の所で布団はどんどん冷めていく。名残惜しくて動けないかと思ったけれど、どこに力を入れる意識をしなくてもいつもみたいに立ちあがれた。
寝ている同級生を跨いで六人分のカバンの置いてあるところ、窓側に取って付けたようなフローリングの椅子へ向かう。右手から円堂の臭いがする。月が明るくて闇がぬるい。
「なあ、円堂って」
「おう、何?」
「……どうなってんの」
「どうって……別に フツーだよ」
さすがにやや困惑したように円堂が答える。パンツだけ穿いた着替え途中の円堂は怪訝そうな顔をしてズボンを握り締めていた。
「見せてっていったら嫌か?」
「見ても何にもないぜ」
「いいんだ、見たい」
「風丸?あの、布団ごめん、怒ってる?」
「見せて」
茶化したそうな言葉を遮るように言うと今度は叱られる前のような顔をする。今このタイミングで押せばいける、と思った時にはもう円堂の下着に指を掛けていた。闇がぬるくて腹がよく見える。
「やっぱり 汚いからだめ」
その夜は二人で円堂の布団で眠った。なんだか久しぶりだな、と言って二人で数えたら三年生の時に親の留守で預けられた時以来だった。円堂はいつも体温が俺より少し、高い。
おしまい
作品名:「修学旅行の思い出」 作家名:あおい