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江戸空

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「あぁ…」

銀時は今日何度目かのため息をついた

これこれもう数十分受話器の終わりをウロウロしている

椅子に座っても落ち着かなくて立ち上がり

受話器の側へ歩いていってはまた戻る

「やっぱり電話なんて来ねぇよなぁ…」

来ないものと分かってはいるもののどうしても落ち着かない

もしかしたらという考えが頭に張り付いてはがれない

「あぁ…」

次第にバカらしくなってくるがそれでも止められない

実を言えば先ほどから何回か電話の呼び鈴はなっているのだが

銀時が躍起になって受話器をとっても彼が今、1番聞きたいあの低い声は

一向に聞こえてこないのだった。

「ったく…こんな日くらい連絡よこせっつーの…」

(何してるんだか…)

8月10日

今日は銀時の愛する高杉の誕生日なのだ

銀時自身、誕生日は好きな人に側に居てほしいし、

みんなそうだと思うのだが

「まさか…」

(連絡が来ないのは俺が嫌いだから!?側に居てほしくないからか!?)

寂しさのせいで余計なことばかりが頭をうめる

「ないないないないないないそれはな~い」

必死で自我を保とうとするが不安は増していくばかりだ

(っくっそ…何で俺がこんな思いしなくちゃならねんだよ…)

(会いてーよぉー…高杉…)

まぁこれも

あんな男に惚れてしまった自分の性分だと

諦めるしかないのだが




すっかり元気を無くした銀時は椅子にぐったりともたれかかる

「あぁ…」

銀時はそのまま浅い吐息を吐きながら眠りについた




どのくらいねていたのだろうか


「おぃ…」

誰かが自分の身体をゆすっている

(新八…?)

眠たい目を無理やりこじ開けゆっくりと起き上がると

「玄関の戸、開けっ放しだったぜぇ…?」

目の前にはあの切れ長の瞳があった

状況が理解できなくてただただ目の前の人物を見つめる

「せっかく来てやったのに…酒すらねぇのかこの家は」

悪態をつきながら銀時の顔を覗き込む

「たっ…かすぎ…」

やっとのことで搾り出したその声に

「あぁ?んだよ…」

(あぁ…高杉だ…俺の待ってた)

言ったきり黙ってしまった銀時に高杉はやや不安そうな顔で問う

「なんだよ腹でも痛ぇのか?」

その顔を見たとたんに今まで胸にあったものが色々流れ出てきたのを

銀時は感じた

「ちょっ…ま…おいっ…」

気がついたらその身体を抱きしめていた

「おいっ銀時 はなせって…」


「………」

「はぁ?なんだ?聞こえねぇよ」

「会いたかった」

「……」

「会いたかったぜ、高杉」

「…あぁ 俺もだ」

「本当に、」

「……」

「ほんとに会いたかったんだぞ…」






「あぁ…俺もだぜ銀時」









「高杉」



「誕生日おめでとうな」

「これからは」

「毎回お前の誕生日にこんな思いするのはごめんだからな」

「絶対ごめんだからな」

だから



「俺の側に居ろよ」



外には綺麗な月なんて浮かんでなくてただ平凡ないつもの空だったけど

高杉と一緒なら


(なんだっていいさ)



(ロマンもくそもあるかってんだ なぁ高杉 )






ずっと一緒に居ような

作品名:江戸空 作家名:こしろう