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平行世界融合

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「俺に言えないなら、別にいい。でもな、いきない押し倒されて、服まで脱がされたんじゃ、理由を知りたくなるだろ?」
「……覚えているか」
 ジャックがぽつりと声をこぼす。頬に伸ばされていたままだった風馬の腕に、ジャックの手が添えられる。
「え?」
「お前の怪我が治ったら」
「……一緒にライディングデュエルをしてくれるんだよな?」
「……勿論だ」
 笑って言えば、ジャックの目が、輝きを取り戻した気がした。
「風馬」
「今度はなんだ?」
「――今の治安維持局の長官は」
 唐突な問いの意味を、風馬は知る由もなかった。
「何だよ、突然。イェーガー長官だろ? レクス・ゴドウィン前長官以来不在の時間が長かったから、これでようやく少しは落ち着ける」
 当然、ジャックの目が絶望の色に染まり、諦観に伏せられる理由など、風馬は知りえないのだ。
「ジャック?」
「風馬」
 添えられていただけだった手に、急に力が篭められる。
「俺と一緒にいろ。今から、ずっとだ! 俺の傍にいろ!」
 ジャックの言葉は荒っぽいものだったが、何故か酷い悲しみと、必死さが同時に伝わってくるものだった。真剣そのものといったまなざしだった。
「告白か?」
「この際、どうでもいい! ……俺が守ってやる。だから、絶対に忘れるな」
 いつもなら否定してくるだろう冗談も受け止めず、ジャックはとにかく風馬の手を握り続ける。忘れるなとはどういうことだろう。風馬は何も忘れてなどいなかった。ジャックと築いた思い出は全て、風馬の身体に、心に、しっかりと刻まれている。それが勲章という名の傷跡だったり、今こうしてジャックの隣にいるということだったりと、要素は様々であるが、風馬にとってはいい意味で忘れたくても忘れられないのが、ジャック・アトラスという存在だった。
「よくわからないが、心配は嬉しいぜ。――でもな、ジャック。お前たちにばかり負担をかけるわけにはいかない。俺だってセキュリティの一員だ。自分の身くらい自分で守れる。だから」
 言いかけた唇は降ってきた唇によって塞がれる。強引に飲み込まされた言葉が咽喉の中を彷徨い消える。守ると言ってくれた男の背中は、本来の体躯よりもずっと小さく見え、孤独と不安に震えて今にもかき消えてしまいそうだった。
 
作品名:平行世界融合 作家名:110-8