くれのあゐ
それは、この世のものとは思えない優美な景色。
だけれど
「やはり駄目だな」
ふと、貴方の口から零れ出た言葉。
「こんな赤さは、血を思い出してしまう」
枝<え>についている紅葉は、水面<みなも>にその姿を映す。
散った紅葉は川の上を流れ、どこへともなく消えてゆく。
「春の桜、夏の空蝉、秋は紅葉。平気なのは冬の雪くらいか」
自嘲気味に吐き捨てる、貴方。
現身<うつせみ>と黄泉、交わることのない世界。
散ってしまった紅葉は散ったままで。
二度と枝に戻ることなどないのだ。
もう いなくなってしまった彼の人もまた、戻ってくることは、ない。
なのに
「ーー貴方は…貴方は、目を背けてはいけないのです。
血刀の犠牲となった命を無駄にしない為に、
今まで殺めた人たちへの手向けに、
贖罪の為に、
雪の純白<しろ>さも、深紅<あか>に染めなくてはいけない」
憎むべき相手なのに。
怨むべき相手なのに。
口を衝いて出る言葉の数々は
「どうしても耐えられないのなら、私を赤で染めればいい。私は既に、雪代ではなく緋村巴。
ーーー私は貴方の鞘なのだから」
何故、こうも矛盾している?
紅い 赤い 緋い
血染めの、川
こんなにも紅く、血に、罪の意識にまみれた川を、御仏は知っているのだろうか。
嗚呼
せめて
せめて
あと少しだけ
全てが韓紅<からくれない>に染まるまで