首化粧
白粉を筆にたっぷりとって、落ち窪んだ肌を蘇らせていく。
首から額にまですっかり真っ白になった顔に、頬には薄く、目尻と唇には念入りに紅を入れた。
美しく仕上がった姿を見て、自分の腕に満足していると、ふと何かが足りないことに気付く。
辺りを見回して、まだ使っていない道具を探したが無い。
開けっ放しの紅と白粉の容器と蓋があちらこちらに置かれ、紅をとった筆が床にそのまま放置され朱に染めてしまっている。
勿体の無い。折角高級な物を出して使ってやったというのに、とまた首に視線を戻す。
あはは、我ながら腕を上げたものだ。あの散々たる骸が此処まで美しく変わるとは。
しばらく見つめて考え込み、念入りに白粉を塗られた目元に視線を移した時である。
嗚呼、これか。と漸く得心がいった。
がちゃりがちゃりと音を立てて化粧箱の奥底に入っていた虫除けの墨を取り出す。
持っていた苦無でそれを削り取って、黒い粉を指にとって、先ほど違和感を覚えた目元に塗りたくった。
両目元が黒く染まったところで、仙蔵は愛おしそうに化粧を施した生首を抱きしめる。
やはりお前にはこれがないとな、と呟くと、腕の中の首が頷いたような気がした。