ボカロの見る夢。番外
side:KAITO
目の前に座った女の子が、ポテトを口に放り込みながら、
「カイトさんって、何でそんなにカッコいいんですかー?背も高いし、歌も上手いし、それって、反則ですよねー」
「あー・・・ええと、こういうデザインなんで・・・」
俺の言葉を遮って、もう一人の子が喋り出す。
「ボカロなんだから、歌が上手いのは当たり前ジャン!何言ってんのー」
「えー?でも、うちのいとこが、歌わせるの難しいって言ってたよー?」
「あんたのいとこが持ってるのは、ソフトだからだよ!実体化ボカロは、ある程度の調律済んでるんですよね?」
最後は俺に向かっての問いかけで、俺は、彼女の勢いに押されながら、
「ええ、まあ、あの・・・」
「調律専門の人がいて、デモソングを何曲か入れてくれるの」
俺の隣に座ったマスターが、静かに答える。
マスターは、俺の顔を見上げて、
「ね?カイト?」
「え、あ、はい・・・」
おかしい・・・。さっきから、マスターの機嫌が悪い気がする・・・。
でも、思い当たることが何一つない。もしかして、俺の対応が失礼になっているのだろうか。
事の経緯はこうだ。
今日は休日で、マスターの買い物に付き合っていたら、マスターのクラスメート2人と出会い、実体化VOCALOIDを見るのは初めてという彼女達と一緒に、ファーストフードの店でお茶をしているという・・・
え、俺が何か、失礼なことをしたんだろうか。
同じく買い物に来ていた二人の、大量の紙袋を代わりに持ったり、ドアは押さえて、彼女達を先に通したり、俺が車道側を歩いたり、ファーストフードの店では、注文品の乗ったトレイを運んだだけで・・・えっと、何か余計だったんだろうか。それとも足りなかったんだろうか。
いつも、マスターに対してしていることで、マスターがそれで不機嫌になったことは、一度もないんだけど・・・。
も、もしかして、マスターが今まで言わなかっただけで、失礼なことをしてたんだろうか。
うわ、ちょ、それって、マスターに対して、何て失礼な・・・!!
「でも、これだけカッコいい人がいるんじゃ、しょうがないよねー」
クラスメートの一人の言葉に、我に返る。
「だよねー!あたしも、あの時は、本気でびっくりしたけどさ!!」
・・・あれ?何か、話の展開が・・・
マスターは、困ったような顔で、「あれは・・・」なんて言葉を濁していた。
「あ、何かあったんですか?あの・・・学校、で?」
俺が聞き返すと、彼女達は大きく頷いて、一斉に喋り出す。
えー、要約すると、女子生徒の間で人気の男子が、マスターに告白したそうで・・・。
うん、まあ、マスターは、当然、と・う・ぜ・ん、断ったんだけど。
はは。おかしいな、俺達実体化VOCALOIDには、所謂「ロボット三原則」が組み込まれてるはずなんだけど、今なら、そいつを爽やかに殺れそうだ。
おおお俺の目の届かないところで、マスターが、そんな危険に晒されていたなんて!!
大体、学生の本分は勉強なんだから!!勉強だけしてればいいんだ!!!余計なことを考えずに!!!
そんな、付き合うとか、マスターにはまだ早いから!!早すぎるから!!!
た、確かに、マスターは綺麗で可愛くて優しくて、なんて言うか・・・こう・・・放っておけないというか・・・だ、だからって!俺のマスターにそんな!!告白とかそんな!!マスターを穢す奴は、俺が許さない!!
「でも、カイトさんのほうが、やっぱカッコいいもんねー」
「だねー!身近に、こんなカッコいい人がいたら、他は目に入らないよねー!!」
俺の物騒な考えを余所に、目の前の二人は、きゃあきゃあ言いながら、話を続ける。
いや、まあ、確かに、どうせ作るなら、ある程度の外見を備えていた方が、売れる訳で。
俺の外見がどの程度のものなのか、俺自身にはよく分からないけれど、それでマスターを守れるなら!!むしろ、担当者よくやったと!!
始終、二人のお喋りに圧倒されたまま、気が付いたら、そろそろ帰らなければならない時間になった。
「あ、ごめん。もう、帰らないと」
マスターの言葉を皮切りに、二人も「もうこんな時間!」なんて言いながら、立ち上がる。
「じゃあ、またね」
「うん、またねー!」
「カイトさんも、またお喋りしようねー♪」
「はは・・・では、失礼します」
はあ・・・すっごいパワーだった・・・。
マスターは、あまり友人を家に連れてこないし、来ても、大体マスターと同じような、大人しい子ばかりだったので、今日は何だか、異文化に触れたような、そんな気さえする。
「帰りましょうか、マスター」
荷物を持って声を掛けるも、マスターは黙ったまま、目を合わせてくれなかった。
あれ?えっと・・・マスター?
「あの・・・マスター?ど、どうかしましたか?」
え?あれ?俺、何した?
ええ!?ちょ、あの、マスターが目を合わせてくれないとか!!
そんな、本気で泣きそうなんだけど・・・!!
「マスター、あの・・・俺、何か、失礼なことをしたでしょうか・・・?」
恐る恐る聞いてみると、マスターは、俺の腕をぎゅっと掴んで、
「・・・カイトのマスターは、私だから」
・・・・・・・・・へ?
「え?あの・・・はい」
懸命に、今の台詞から、マスターの意図を探ろうとしていると、マスターは、俺の腕を掴む手に、力を込めてから、
「ごめんね、カイト」
そう言って、いつもの笑顔を向けてくれる。
え?何ですか、それ?
ごめんて、え?何?何ですか、マスター!?
「帰ろう。遅くなったら、お母さんが心配するから」
「え?あ、ああ!そ、そうですね」
全く繋がりが分からないけれど、何故だかマスターの機嫌が直ったような気がする。
一体、何だったんだろうか・・・。
良く分からないまま、俺は、マスターと一緒に家路についた。
終わり
作品名:ボカロの見る夢。番外 作家名:シャオ