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くろいあめ

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彼は相変わらず苛々と青筋を立てながら牛乳を飲んでいた。じゅる、と音を立てては飲みきり、握りこんでパックを平たく潰したかと思えば、人が投げるとは思えないスピードでゴミ箱へと投げ飛ばされた。
「シズちゃん、シズちゃん。ご機嫌ななめ?」
「あぁ、臨也をぶっ殺してやりたい位に不機嫌だ」
「そういえば、ドタチンと新羅もいないね」
 彼は知らないだろうけど、新羅は学校が終わってすぐに首無し妖精とふらふら遊びに行ってたりする。ドタチンは、真面目に先生の所まで勉強を聞きに行ってるのか、はたまた不良を粛正しているのか理由は知らないけれど教室には居なかった。
 故に俺とシズちゃんの二人きりで放課後に昼食を食べているのだ。なぜ放課後に昼食を食べているかと言えば、昼休みにシズちゃんが俺を追っかけてきて食べる時間がなかったからなのだが。
「そうだな。……あぁ、もう、先輩さえ居ればよぉ」
 ぼそ、と呟いた彼は菓子パンの封を開けて口にもくもくと食べている。ペールブルーの瞳はどこに焦点を当てる事はなく(強いて言うなら俺に向いていない)さまよっていた。
「田中先輩だっけ。今日はどうしたの?」
「今日、朝っぱらに彼女らしい女と歩いてた」
 その光景を思い出して苛々したのだろうか、柔らかい事を売りにしているパンはひしゃげて、固く薄っぺらい食品にされていた。
 可哀想に、と思わずパンに黙祷を捧げる。けれどシズちゃんは気にする風もなく、ぺろりと食べてしまった。
「そりゃ、気まずいよねぇ。俺だって、女がシズちゃんと並んでいたら、その女を消そうと四苦八苦するもの」
「そうかよ。俺は手前が女と歩いてようが関係ないけどな」
 鼻で笑った彼は、真ん中を結んでリボンの形にしたパンの袋をまたも屑籠に向かって投げつけていた。相変わらずものスピードで吹っ飛んでいったものである、暴れさえしなくちゃ(俺の所為も少なからずあるのだが)野球部からスカウトが来たかも知れない、寧ろ他の部活からも引っ張りだこだろう。
「えー、シズちゃん酷い。ほら社交辞令でもなんか言っとくべきじゃない?」
「じゃあ、勝手にお幸せにすりゃいいだろ」
 ひらひら、と手を振って話を強制的に終わらしたシズちゃんは、鞄に荷物を詰め始めた。どうやら俺を置いて帰るつもりらしい。
「ちょっと、待ってよシズちゃん!」
「あ? 門田と先生と話がもうそろそろ終わるだろうし、門田と帰る」
「シズちゃんは俺よりドタチンの方がいいの!?」
「勿論」
 当たり前だろ、と言ったかと思えば鞄を担いで出て行ってしまった。その背中を追いかければ怪訝そうな顔をしてくるが、無視を決め込むことにした。どうせ、尋ねたって嫌な顔をするだけだ。
「えー、なんであのオールバックがいいの? おっさんみたいじゃん」
「手前よりよっぽど好きに決まってるだろ」
 気でも狂ったか、といったようなといった風に振り向かれたものだから、酷いよ! と思わず背中を叩けば思い切り蹴っ飛ばされた。
「痛ったぁ……。ちょっと愛が重すぎるよシズちゃん!」
「じゃあ、付いてくんな門田と俺は帰る!」
 俺から逃げるように彼は廊下をダッシュしはじめた。それに追いつけ追い越せと走るものの、向こうは生粋の筋肉バカという事もあってどんどんと距離が離れていく。
「え、ちょっと、待ってよ!」
 と叫ぶものの聞こえている訳もなくて。と、思っていたのだが、角を曲がったところにシズちゃんが立っていた。目の前に紅茶色の髪をドレッドヘアにした田中先輩である。なんの話をしているのかと隅っこで見守る事にした。
「あ、先輩!」
「おぉ、静雄。こんな遅くまでどうしたんだ?」
「先輩こそ、」
 シズちゃんと先輩が楽しそうに談話をしているのを見て思わず泣き出しそうになった。俺とドタチンを比べられるのはまだ笑って許せる、けれど先輩と比べられたのなら俺は堪らなく悔しだろう。
 田中先輩は俺の持っていないものを持っている。シズちゃんに好かれ、慕われるなんて例え世界が逆回転になっても俺に抱いてくれない感情であろう。
 思わず踵を返して別のルートからの帰り道を模索する。空を見れば俺の気持ちを現しているように、黒い雲が広がっていた。
作品名:くろいあめ 作家名:榛☻荊