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センタイ

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導士嘉挧は5人の前に立ち、満足そうに頷いた。
「よし、皆準備はすんだな」
「………」
 初めてここに連れて来られてから早二ヶ月が経ち、段々と見慣れてきた東京駅地下にあるダイレンジャー基地。
 そのメインルームで無言のまま立ち尽くし、亮は困惑気味に、両隣に立っている仲間達と視線を合わせた。彼等も亮と同様、困った表情で首を傾げている。両手を塞いでいる物体を顎で示し、これは一体どういう事なんだよ?…と問いかけてくるも、勿論、亮にだって導士の思惑は解らない。
「あの、導士」
 思い切って声を上げたのは、導士の姪であるリンたった。
「何だ」
「準備はすんだって……一体何の準備なんですか、これ?」
 と、自分が持っているモップとバケツを掲げて見せる。どちらも新品で、バケツの中には自然に優しい植物性石鹸が入っている。
 それをダイレンジャー5人全員が両手に持ち、更に色違いの作業服で身を包んでいる。
 呼び出されるなり問答無用で着替えさせられ持たされた訳だが、一体何故こんな格好をしなければいけないのか。
 怪訝な表情で自分を見上げる5人を、導士は黙ったまま見下ろした。
 妙な緊張感が漂い、思わず唾を飲み込む5人。
 力強い瞳で一人一人に視線を注ぎ、導士嘉挧は口を開く。
「“センタイ”だ」
 一瞬の間を置き、
「……は???」
 ダイレンジャー5人は間抜けな声をあげた。

 

 

「こういう事ならこういう事だって、最初っから言ってくれれば良いのに導士」
 モップにもたれながら亮はぼやいた。
 オーラチェンジャーの向こうから、将児の同意が返ってくる。
『だよなー、なら俺達だって最初っから喜んでするのによー』
『きっと導士は僕達ならすぐに解ると思ったんでしょう』
「いや、解らねーだろ、アレだけじゃ」
 と、知の発言に突っ込んでいると、
『喋ってないで手を動かせ』
『そうよ、でないと日が暮れたって終らないわよ!』
 と、大五とリンの声が、モップを動かしながら喋っているのだろう、妙に揺れながらオーラチェンジャーから飛び出した。
「はいはい」
 確かに言われる通りなので、そこで通信を切り作業に戻る。手近なところに置いているバケツの中にモップを浸し、紅玉の床――もとい、龍星王の背中をゴシゴシと擦りだす。龍星王が首をもたげ、不満そうに亮に鼻息を吹きかけた。
「あ、悪い悪い。つい力が入っちゃってさ」
 片手を上げて謝罪すると、「本当か?」とでも言うように首を傾げてから、龍星王は悠々と地面に首をのばして寝転んだ。
 そんな仕草に思わず笑顔が浮かび、亮は先刻の導士との会話を思い出した。

 

 

「洗う体と書いて、“センタイ”だ」
「洗う体…?」
「戦う隊じゃなくて…?」
「そうだ」
 短く頷く導士嘉挧。
 しかし、それだけでは、何が何だかまだ解らない。自分の体を洗うのではない事は分かる。導士の体でもないだろう。基地内の掃除を意味しているのなら、わざわざ造語など使用せずに最初から“掃除”という単語を持ってくる筈だ。
 眉間に皺を寄せた大五が、一歩前に出る。
「それはどういう事ですか? 何の体を洗うんですか、導士?」
「分からんか?」
「…はい」
「天宝来来の玉を出せ」
「え?」
「天宝来来の玉を出せ」
 訝しく思いながらも、5人はモップとバケツを置き、常に持ち歩いている天宝来来の玉――気伝獣の力を宿した宝珠――を懐から取り出した。五色の天宝来来の玉は、それぞれの色、赤・緑・青・黄・桃色に淡く輝いている。
「…これは…?!」
 驚き、宝珠を凝視する5人に、導士は重々しく頷いた。
「龍星王達がお前達を呼んでいる」
「龍星王達って……」
 呟きながら、亮は左隣に立っている大五を見やった。
 その視線を受け取りながら、続けて大五も呟く。
「星獅子?」
 そのまま、亮を挟んで反対側に立っている将児と視線を合わせ、
「星天馬か…」
 将児は呟きながら、視線を大五の隣に立っている知へ飛ばす。
「星麒麟が…」
 呟きながら、もう片一方の端に立っているリンへ視線リレーの最後のバトンを飛ばす知。
 皆の視線を受けて――導士の視線も受け止めつつ――リンは信じられない思いで唇を動かす。
「…星鳳凰が、私達を?」
「そうだ」
 満足げに頷き、
「気伝獣達が“洗体”をしてもらいたくてお前達を呼んでいるんだ」
 導士嘉挧は、力強い声で説明した。





 〔終〕
作品名:センタイ 作家名:uhata