シコウヒン
シコウヒン
「おい、芹沢みてねぇか」
ざしゅっと音を立てて突き刺さったダーツの矢は、中心とは離れた黒いとこ。投げる直前に声を掛けたのはわざとだ。
振り向いた奴の顔の眉間には想像通りに皺が寄り、目が眇められていた。いい顔。
「次はお前の額狙うぞ、この野郎。本当にお前は芹沢芹沢うるせぇな」
顔を前方に戻し、最後の一投。流れるような無駄のない動きはいつ見ても変わらない。今度はきれいにど真ん中。
手近なカウンター席に腰を下ろす。屋上、たまり場、滝谷のとこ。そして、ここにいないとなると、芹沢を見つけるのは難しい。
「芹沢の野郎なら、今頃は源治と一緒にチャリで海だ」
「・・・・・・はぁ?」
一瞬遅れて間の抜けた声を上げる俺なんて気にも留めず、忌々しい金髪はd悠々と二杯目を手酌する。
「おい、どういうことだ」
なんとも要領を得ない話に、自然と声が低くなる。
俺を一瞥してから、新しいグラスを取り、差し出してくる。酒を注ぎながら開かれる口はとても億劫そうだった。
「俺だって詳しくは知らねぇよ。さっき…つっても結構前だけど、源治に、こっから一番近い海までの道、聞かれた」
芹沢が見たいって言ったんだと、という続きに力が抜ける。
「海に向かってタンデムってか。芹沢はいねぇし、他のやつらも捉まらねぇし、今日はツイてねぇな」
でかいため息を吐いて小さく揺れる湖面に視線を落とす。酒はそれほど好きじゃない。
あーと力無く声を出したところで、横から伸びてきた腕にグラスを奪われた。あっという間に飲み干された空のグラスは、音を立てて場外へ。落下させなかっただけ理性はあるか。
次に伸ばされた腕の先は俺の後頭部。合わせた口のすき間からむりやり舌がねじ込まれる。解放は意外と早かった。
「お前、何怒ってんだ」
俺の問いには答えずに、出口に向かう我儘な金狼。
二度目のため息と同時にゆっくりと立ち上がる。
「おい勇次。今日は俺が上だ」
舌に残る酒の味は嫌いじゃないが、俺にとっては甘いだけ。
「悪ぃな瞬。俺の気分も今日は上だ」
取り出した煙草に素早く火を点ける。自然と顔が笑みを作る。
これだから、やめられない。
「さて、今日は何で決めっかね」
そして紫煙の先の金を追う。