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スモーク・オン・ザ・ウォーター

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 例えばその煙。視界が悪くなる。なのに、匂いが付くのは目に見えるような気がする。それをどうして阻止出来ないのかと歯痒く思う。しかし煙は掴めないから、うまく取り除こうにも策はなし。
 ならばどうしたらよいか?
 それは、吸わせないことが一番の効果的な対策である。
「美味しいのかい、それ」
「うまいも何も」
 癖みたいなもんだな、アーサーがそう言うのを聞いて、アルフレッドは眉を潜めた。
 昔はそれ、煙草なんて吸っていなかった。いつから吸い始めたのだろうかと自分に問えば、心当たりが有りすぎて、欲してなどいないのに、答えはおのずと出てきてしまった。彼について何を自分に尋ねても、すべての答えを知っている。それほど、アルフレッドにとってはアーサーといた時間は長かった。成長という過程を共にしてくれた存在なのだから、当然といえば当然であるのだが。
 だからこそ、煙草なんて目の前で吸われるのは、そうだ自分にとって良くない、だから嫌だと思った。
 アーサーの煙草を持った方の手が口元から離れたのを見計らい、アルフレッドは顔をアーサーに近付けた。すると、アーサーの空いている方の手がアルフレッドの口を押さえた。アルフレッドは驚いてビクリと体を撥らせた。
 アーサーがそれを見てにやりと笑ってみせると、アルフレッドは眉を顰めた。アーサーの手が離れて、アルフレッドは口を開いた。
「どうして健康を害するようなものを率先して摂取するんだい」
「そういう話じゃねえんだよ。ばあか」
「そういう話だよ。少なくとも、合理的ではないな」
 駄々を捏ねる手前の子供のようなアルフレッドをよそに、アーサーはまた煙草を口元へ運ぶ。
「お前が理解するにはまだ早えな」
「もう19だぞ」
「まだ19だ」
「4歳しか変わらないぞ」
「4年もあれば子供は大人になるんだよ、クソガキ」
 アーサーは、ふー、とわざとアルフレッドの方へ煙を吐いた。
 何故だかゆらゆらとおぼつかない足元と煙の相乗効果に酔いそうで、アルフレッドは顔をしかめた。アーサーがそれを鼻で笑った。アルフレッドは365かける4を頭で計算しようとして、また顔をしかめた。アーサーは煙を吐いた。煙はあっけなく透明になって消えた。
 呼吸をした。喉を引っ掻くような匂いが鼻をすうっと通り抜けて、口から力無く零れ出ていった。