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わんわんお

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夏、日曜、18時、扇風機ががこがこと首を回すこの部屋に、野良犬が一匹、転がりこんでくる、そんな日常。その野良犬はへらへらとよく笑う犬で、だらしない奴だった。そのだらしない犬は何がだらしないって下半身がもうだるっだるなんだこれが。男にはめられる方でしか勃たねーんだわ、そう言われた時は、はぁ、まぁ、そうですか、としか。俺にそれを言うってことはあれ、俺にはめてほしいって訳?と聞けばそうではないと首を振る。「お前にはめてほしいと思ってたらこーんな事言わねーよ。俺、狙った男には結構かわいーんだぜ?」そう言って小首を傾げて見せたその仕草がお前の言うかわいーってやつなのかどうかは知らない、知らないけれど、「音無はそういうんじゃねーの、ダチだろダチ、しんゆー?」親友、ね。随分と照れくさそうに言ってくれんじゃねーの、照れるくらいなら言うなよ、「俺一応はずかしー性癖をカミングアウトしちゃったつもりなんだけど。」はぁ、別に聞きたくて聞いた訳じゃねえけど、「お前のそういうとこ、俺、すげえ好き。」すげえ好き、ね?へらり、笑ったそいつのその五文字とさっきの親友という二文字が目の前でちかちか光った。
それからというもの、何かあるごとにふらふらとどこぞのシャンプーの匂いを振りまいては「おとなしー、泊めてくんねー?」やる事だけやって泊めてもくれねえようなダーリンな訳?と言ったこともあったが、シャンプーどころか精液の匂いそのままによろよろと倒れ込んできた時は流石に風呂に放り込んだ、精液の匂いがうちのシャンプーの匂いに塗り変えられた時にぞくりと背を這いあがったのは何だったか、見て見ぬふりをするにはもう俺もこいつも、限界のように、思えた。
そして今日にいたっては首と両手首に絞め跡なんか残してきやがった、あげく、へらへら笑って「音無ん家なら救急箱とか、ありそうじゃん?」お生憎様、うちには野良犬につける薬は無いんだわ。この駄犬の首ねっこを引っ掴んでベランダへ投げ捨てた、ごん、鈍い音がしたが知らん、思い切り鍵をかけてやる。はっ、信じらんねーって顔。いい気味、いつまでもうちで甘やかしてもらえると思ったら大間違いだ、「なー、俺こういうプレイは専門外なんだけど。」へえ、じゃあどんなプレイがお好みなんですかね、とは聞かずただじとおとそいつを見下ろせば、そいつはため息をひとつ、こぼして。「こんなんしてご近所さんに見られて困るのはお前だかんな。」ああわかってらあ、お前がふらふらしだしたのが俺にはずかしー性癖とやらをぶちまけたあの日からだってことも、お前が俺んとこに帰ってくる度お前の匂いを確認しているこの俺のどうしようない苛々も全部全部、痛いくらいわかってんだ、だから、だからもうおとなしく、うちの子になっちゃいなさいな。
作品名:わんわんお 作家名:きいち