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【ポケモン】リューブライト【腐向け/N主♂】

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空に闇が広がり、蜜蝋燭に炎が灯ると、それは1日が終わる合図。
オレンジの落ち着いた光が満ちる部屋の中で、
Nは椅子に腰かけ、
僕はそのかたわらに立って、
無言のまま腕に抱くポケモンの背をなぜていた。

最近のNは友達を傷つけてくることばかりしてくる、
しかし、それは望むものの為に必要な戦いであり、
彼らもそれを理解している……もちろん、僕もだ。

……ただ、納得しているわけじゃない。

僕は、ぎゅっと腕に力をこめる。

目的に近づくたび、
納得できないことが増えてきて、
理解すら阻もうとして、
そのうちどうしたらいいかわからなくなりそうな気がする。

どうして敵である彼女に……こだわるのか……。

名前も知らない、姿も見たことがない女の子が必要だ、とNは言う。
必要、という言葉が僕の頭の中で繰り返される。
そして『納得できないこと』を増やしていく。

手の甲に鋭い痛みと温かなぬめりを感じて、
無限にループしていた思考が一気に止まる。
そして高く鋭い声を立てて、腕からポケモンが転げ落ちるように逃げていった。

しばらく唖然としていると、今度はすぐ近くで静かな布擦れの音がする。
ようやく考え事を終えたらしいNがこちらを見ている。

「彼が痛がってた。
傷口が押さえつけられたって」

「……」

腕に力をいれたから……だよね。

理由はわかった、彼には悪いことしてしまった。
だが、Nに対して返事をするのが億劫で、
僕は聞こえないフリをして部屋から出ていこうとした。

「……やつあたりはいけないな。
ボクの好きなブラックはそんなことしない子、だよ」

「してない、そんなの。どうして僕が……」

「素直なのはキミの美徳であり、欠点でもあるね。
感情で乱れた自身を隠そうともしない」

「そう……」

「でも、キミはそれでいい、それでいいよ」

絶やされない微笑に添えられるNの言葉は、
手の甲、先程できたばっかの傷口をくすぐった。
いつの間にかNの手の中に僕の小さな手があり、
唇が押し付けられる。

ザラリとした感触が這っていったが、
僕には予感があって、
声を上げることもなく、
背筋までやってきた感触も耐えることができた。

唇が離れた事がわかると、
逃げるようにNから離れる。

「こんなことをするNなんて大嫌いだ!」

恨みがましい鋭い僕の声にも、
まっすぐに見つめる視線で軽々と受け止めただけで、
穏やかな口調は僕に質問を投げかけた。

「ならどうする?ボクから離れる?」

「なにそれ?」

どうしてそんな発想になるのか、答えなんて聞いてどうするのか。
僕は当然、Nがすでに決めている答えしかできない。

「どうしてそんなこと聞くの?」

答えたくないから、
愚かなことだと分かっていても質問をする。

「答えてあげるからこっちにおいで」

手招きがこちらに来ることを促しているが、
僕は少しだけ足を引いた。

「答えはいらないのかな?ねぇ、本当に?」

淡い橙に満ちる部屋だけど、Nの顔に深い陰影を作り出し表情が読み取れない。
ただ僕を見つめる目は細められていた、それだけはわかった。

「……『目的』の為には必要なんでしょ、僕が。そうだったよね?」

「彼女で充分だね、目的のためには」

むきになって反論する気が起きず、ただうつむいただけだった。

「ブラック、こっちへおいで」

……嫌だ。
その言葉は僕の口から出ることなく、消えてしまい、
自分の意思とは関係なく、気づけばNの腕の中にいた。

「前に話したとおりだよ。
彼女と戦うことは、ボクたちの望む力を得る近道となる」

「……そんなこと……ない。
絶対にない!僕はそうは思わない!!」

「カワイイね、嫉妬かい?」

Nの返事は、激しい叫びから湧いた熱でフラフラする僕を一瞬で冷却させ、
さらに奥から別のモノを沸き上がらせた。
震えている僕の手を取って、長く細い指で何かを書き始め……それが数字や記号であるのはわかったが、
それ以上のものはわからない。
……は歪エルミートであるので固有値は純虚数、反交換子はエルミートであるので固有値は実数に、
とつぶやきながら、まだ書いていた。
これが証明、と言って、解放された手にはなぞられたNの温度以外何も残っていない。

「これでいいよ。ボクはキミのものになったから、安心でしょ」

「……どういう……こと?」

「さっきの数式……あれは、ボクがキミのものであることが正しいか導くためのもの。
ちゃんと仮定から結論づけることができた」

「……さっきの数式?算数でそんなこと?」

「算数じゃなくて数学って言ってほしいな。
それはともかく、ボクがブラックのものになりました……どう?」

Nは楽しそうに笑った。
ボクには数字と記号の羅列と所有の有無に結びつくのかが謎だ。
最も知識の量、頭脳の明晰さに関してはNの方が圧倒的で、
まかり間違っても太刀打ちできる存在ではない。

もっとつっつけば、ボクが分かるまで、納得してくれるまで教えてくれるだろうか……。

だが、脇腹の素肌をなでられる感覚のせいで腕から力が抜け、
代わりに身体を支えるため、Nの服をぎゅっとつかむことに必死になってしまっている。

聞きたいことをまとめている間でも、
指の動きは止まることはなく、むしろ先程よりはっきりと緩急をつけてくすぐられている。

もう、それどころではない……けど、うつむいていた視線を上げるため顔を向けた。
名前を呼ぼうとした一瞬で頬から顎のラインをなめられ、
抵抗なく開いた僕の口は、そのまま従順に受け入れてしまう。

「……やっぱりわからない」

口から続く短い銀糸と同じ距離ができた時、
僕は乱れた呼吸を整えながらそれだけを言った。

「だから、ボクの言った通りだよ。
そのまま受け入れればいい。
そのままね……あ、そうそう。
キミはボクのモノという前提条件があるから、さっきの数式は成り立つんだよ」

まるで何かの付け足しみたいに聞こえたNの言葉が、
僕の頭に残ることはなかった。
耳に届いたときには、それがどういうことなのかどころか、
何を言っているのかすら判断できないほど、
激しい苦楽両方の感覚に苛まれていたからだ。
いつ解放されて、楽になるのかな……そんな事ばかり浮かんでいた。

重く閉じていたまぶたを開いてみるとあたりは暗闇に包まれ、
2、3回まばたきをして、ぼんやりとであるが視界が広がっていた。
窓から注ぐ月や星の白い光が、お互いの熱で染まった朱も汚れもかすかに照らしているのがわかる。

ほしいところにキスをしたり、動けない身体をきれいにし、新しい上着を着せてくれるのも僕にくれた権利なのだろうか。
毛足の柔らかい絨毯の上でただ空気とたゆたうように横になっている僕の隣に
先ほどとは違う上着を羽織ってきたNも寝そべってきた。
視線だけ動かすと、白い肩と胸元が見えるので、指でそっとズレを直してあげた。
最初は驚いていたけど、その後クスクス笑う声がする。

「ねぇ、彼女に会ってみる?結構面白いよ?」

「絶対に会わない」