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掌編 『そのままの君でいて』

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「あー、ギルベルト君じゃないですかー。いらっしゃいませー」
 にぽーん。
 背後に浮かぶ、妙な擬音と花。緩みきった顔で彼を出迎えた男の姿に、ギルベルトは頬を引き攣らせ、眉間に皺を寄せた。
「き、菊……だよな?」
 通い慣れた町、見慣れた家に見慣れた男……の見慣れない言動に、彼は思わず確認の問いを投げる。
「はいー、どうしましたかー?」
 何かおかしいのか。そんな様子できょとん、と首を傾げながら目を瞬かせる彼は、間違いなくギルベルトの恋人である菊だ。しかし、纏う空気も声の調子も何もかもが常の彼とは異なっている。
 だからこそギルベルトは思ってしまったのだ。誰だこれは、と。

「……お前、しばらく留守にしてたよな。旅行にでも行ってたのか?」
 二週間ほど前のこと。いつものようにアポなしでギルベルトが菊の家を訪問してみれば、たまの例外はあれどいつも穏やかに歓迎してくれる恋人もその愛犬も居らず、携帯に電話をしても通じなかった。何となく意地になってそれ以降は電話もせずにホテルに泊まり、翌日改めて訪問してみても留守のまま。
 ふてくされて家の前に佇んでいたギルベルトに声を掛けたのは、頻繁にここを訪れる彼とも顔見知りになっていた菊の隣人だった。
『本田さんなら旅行でしばらく留守にすると言って、昨日の朝早くに出掛けられましたよ』
 俺はそんなことは聞いていない。そうギルベルト叫びそうになった。が、連絡もなしに訪れた自分が悪いのだとは分かっていたし、関係のない相手に言ったところで仕方がないと口を噤む。
『そ……そうか、ありがとうな。ちょっとたまたま近くに来たから寄ったんだけど留守か、そうか』
 そう言って何でもないように立ち去ったギルベルトは、生温かい目で彼を見送っていた相手のことなど知らなかった。もちろん、実は隣人が昨日も彼の姿を見掛けていたという事実なんて欠片も知らない。

「はい。フェリシアーノ君のお家にお邪魔してたんですよー、ルートさんやロヴィーノ君もいて、すっごく楽しかったです」
 お土産もたくさん貰っちゃいました。とフェリシアーノと同じようなくるんとした何かを生やした菊が言う。
 その言葉に、そういえばしばらく前に可愛い可愛い弟分がフェリシアーノの所へ遊びに行くと言って、あの厳つい顔を緩めていたなとギルベルトは思い出す。
(そうか、四人で楽しんでいたのか。それはよかったな、俺はそんなこと誰からも聞いてなかったけどな。……俺様一人楽しすぎて困るぜ)
 自分には声も掛けてくれなかったという事実に言いようのない寂しさを覚えながら、ギルベルトは以前に彼の弟分が言っていたことを思い出す。
 『菊は、フェリシアーノのところで過ごすとあいつの国の空気に感染してしまって困る』と溜息を吐いていたルートヴィッヒ。ただ、いつもきっちりとした彼の緩んだ様子には、少しばかり和むとも言っていた。
 そのときは、そうなのかとギルベルトも聞き流していた。しかし、実際にこうして目にした菊の姿に、彼は心の中でルートヴィッヒに疑問の言葉を投げずにはいられなかった。
(ルッツ……これのどこが和むんだ!)
 お兄様にはお前の頭の中が分からない。鳥肌になりながら、ギルベルトは思わず遠い目をする。
 実際にこうして目にした、にこにこ、ぽやん、と微笑む菊の姿は正直に言って……。
「きもいぞ爺」
「えー、何てこと言うんですか。ギルベルト君酷いですー」
 それはいじめですか?なんて言いながらぽこぽこと怒る様子にも、可愛いなどという感想は全く抱けない。ギルベルトからすればこんな菊は気持ち悪いし、何やら苛々とした感情も湧いてくる。
(フェリシアーノちゃんは可愛いのになあ)
 同じような空気を纏っているのに、なぜここまでギルベルトの感情に差が出るのか。自他共に認めるブラコンのギルベルトが、愛する弟分と同じくらいに可愛がっているその親友。彼が相手ならば、こんなふうにへにゃりと笑っている様子にはただただ可愛いという感想しか生まれないはずなのだ。
 一体何が違うというのか。
 普段は表情の乏しい菊に、もっと感情を顔に出せとギルベルトが言ったことは多々ある。しかし実際にこうなってみると、違和感ばかりが先にたって居心地が悪い。その原因をしばし考え、彼はぽんと手を打った。
「あ、そういうことか」
 一人で納得した様子のギルベルトに、不満そうな顔をした菊が何がそういうことなのかと尋ねる。
「フェリちゃんだったら、こんな感じのがすっげぇ可愛いと思えるのに、何でお前にはこんなに気持ち悪いって思うのかって考えてたんだけどな」
「なんですかそれー」
 失礼な言葉に頬を膨らませる姿も、どうしてもギルベルトには受け付けられないものだった。何故ならそれは。
「だって、こんなのお前じゃないだろうが。ていうかな、いくらフェリちゃんとはいえ、俺以外の奴に影響されたお前なんて見るの嫌だっての」
 堂々と己の思ったことを口にしたギルベルトに、菊はぽかんとする。
「つまり、自分で思ってた以上に俺は普段のお前のことが好きってことなんだよな」
 言いたいことを言ってすっきりした、と満足そうに彼は笑った。
 その言葉に、菊は心臓が暴走するのを感じる。
(ああもう、貴方は何て……)
「菊?」
「そ……そういう恥ずかしいことを、真顔で言わないでください!」
 突然俯いて何も言わなくなった菊に、どうしたのかと尋ねたギルベルトに対して返ったのは、珍しいほどに強い口調の菊の言葉。
「お、戻ったか。よかったよかった」
 クリーム色の肌を耳まで赤く染めて抗議する菊の、短く切り揃えられた髪を大きな手のひらで撫で回して、彼は嬉しそうに笑った。
 こんなことを言われてこんな笑顔を向けられたら、菊にはもうどうしようもない。フェリシアーノを猫可愛がりするギルベルトに嫉妬して、わざとフェリシアーノ化するために彼のところに遊びに行っただなんて口が裂けても言えない。
 あんなにも彼のことを可愛がっているくせに、菊だと気持ちが悪いと言われて、結局彼は菊よりフェリシアーノが好きなんだなんて落ち込みかけていたのに。
「おし、じゃあ今日こそお前の作った肉じゃが食べさせろよ」
 それを楽しみに来たんだからなと、菊の腕を掴んで家の中へと入っていくギルベルトに、彼は真っ赤な顔のまま従った。
(……今日は普段よりじゃがいもをたくさん入れましょうかね)
 その前に買い物に行かないと。丁度いい荷物持ちもいるのだから少しくらい多めに買っても問題はないだろう。どうせ半分くらいはギルベルトが消費することになるのだから。
 そんな風に夕飯の段取りを考えながら、菊は目の前の広い背中に目を細め、柔らかく笑みを浮かべた。