大切な存在
「うん、有難う」
そう。僕も―悪気は無かった。それだけは誓って云える。
でも、考えなしに口にしたこと―後悔、している。
「真宵ちゃんは、やっぱり有能な助手だね――」
その一言を発した瞬間、彼女の表情が変わった。
「なるほどくんは・・・今まで、あたしをそう思っていたの・・・?」
「うん。そうだけど・・・いけなかったかい?」
その瞬間、真宵ちゃんは近くにあった六法全書を僕の顔めがけて投げた。
それに対し、僕は言い返す間も無かった。
「何が『いけなかったかい?』なのッ・・・少しは・・・考えてよッ!」
「あ、ま、真宵ちゃん・・・!」
彼女は、そういうと事務所を飛び出していってしまった。
その時の彼女の瞳は、少し潤んでいたような気がしたが、その理由が僕に分かるはずも無く。
ただただ、頭上に『?』を浮かばせているだけだった。
「真宵ちゃん・・・」
真宵ちゃんが事務所を飛び出して1週間。
僕は仕事が片付かなくて困っていた。
前にもこんなことがあった。真宵ちゃんが里に帰ってしまった頃、だ。
何故、だろう。仕事が1人では追いつかないから?
・・・違う、と思う。
じゃぁ、何なんだろう。
その時、僕のデスクの上に一粒の水滴が落ちた。
ああ、分かった。
寂しい、んだ。
「ごめん・・・ごめんね、真宵ちゃん・・・」
「ううん。分かってくれたんならいいの、悪気があったわけではないし・・・」
真宵ちゃんは、僕からただの『道具』として見られていたんじゃないか、って。
そう思ったらしい。で、僕もその事にやっと気づいて、真宵ちゃんに謝った。
「でも、お詫びにみそラーメン食べに連れてってよね!」
「分かったよ」
元気を取り戻した彼女に向かって微笑む。
そして云う。
「真宵ちゃん・・・やっぱりキミは―」
僕の『大切な』助手、だよ。