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それは夕焼けか朝焼けにも似た

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「静雄お兄ちゃんは私のだもん!」
「否定します。あなたの意見の根拠は希薄です。先輩は私の獲物、これは規定事項です」
 いつものように静雄の脇では黒い少女と白い女性が言い争いをしている。当の静雄はトムに頼まれたコーヒーを買うのに夢中で自分を挟んだやり取りなぞ聞いていない。
 茜は女性の青い瞳を見上げ、ヴァローナは少女の黒い双眸を見下ろした。ばちりと中央で火花が散る。髪の色も瞳の色も身長も纏う雰囲気もまるで正反対、年齢すらばらばらの二人だが、まるで朝焼けと夕焼けがそっくりなように、静雄に対する得体の執着だけはよく似ていた。
 茜はヴァローナのことが苦手でヴァローナも茜を得意としてはいなかった。静雄が臨也の姿を認めるだけで頭に血が上りトムの一声であっさりと静まるように、相手の姿を眼に入れた瞬間の反射にも等しい。
 彼女に敵うわけがない。茜はそう思う。さらりと叩かれる軽口も蓄えられた知識に向けられる称賛の眼差しも、茜がどんなに背伸びしたって静雄から与えられることはない。それが悔しくて余計に眉根が寄ってゆく。茜が欲しくてしょうがないものを目の前の女はあっさり手に入れてしまい、それでなお茜を羨んで睨んでくる。
 彼女に敵うわけがない。ヴァローナはそう思う。いつも凡庸としている静雄が向ける溶けるように柔らかい笑顔もひょいと抱き上げられることも、ヴァローナがどんなに丸まっても与えられることはない。母国語にすらできない感情は茜に向かう。ヴァローナが欲してやまないものを目の前の少女は感受し、その上ヴァローナへの嫉妬を隠さない。
 10歳そこそこの少女と20歳前後の女は互いに得体の知れない感情でもって睨み合い、しかし同時に目を逸らした。ヴァローナの青い瞳に、茜の黒い双眸に、なにかを見つけてしまったから。それは嫉妬だとか羨望だとか、使い古した言葉で表せるものではない。もっと複雑で絡み合っていて、自身の奥底にも息づくものだ。だからこれ以上見つめられなかった。見つめたらなにか重大なことに気付いてしまう気がして。ただの予感と言ってしまえばそれまでだが、それだけで片付けるにはあまりに重いものが横たわっている確信がより濃厚にあった。
 茜がヴァローナに、ヴァローナが茜に抱く得体の知れない感情。それが静雄に抱くものと同じくらい、魍魎渦巻く複雑なものだということに二人はまだ気付いていない。