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どこでもてつどう

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どこでもでつどう



「どこでもてつどう?」
 なんだそれはと、東海道は眉を寄せた。
「今度は、学生を対象とした会員制サービスを始めるみたいなのよ。その一環として、ほら」
 そう言って、秋田はぱかりと携帯電話を開いてみせる。中にはなんだか不機嫌そうな白い猫のかぶりものをした三頭身のキャラクターがいて、こちらを睨んでいた。どこかで見たようなダークグリーンの制服を着ているのが、なんだかとてもイヤな感じだった。
 東海道はさらに眉間のしわを深くした。
「……それで。何ができるんだ」
「何がって言っても」
 秋田は肩をすくめた。東海道は、眉を寄せたまま、携帯電話のボタンを押してみた。だがそれは待ち受けに表示されているにすぎず、発話画面に切り替わってしまう。
 どうしろというんだという東海道の言葉に、秋田はあははと明るく笑った。
「勝手にしゃべったり動いたりするのをたまに眺めて楽しむのよ」
 そしてたまに、JRのお得な情報を発信します! と。昼時のCMみたいな口調でつけくわえた。その言葉に、発話画面を終了すると、東海道はじっと秋田の携帯を見つめる。画面の中のキャラクターは、じっとこちらを見ていたかと思うと、ぷいと顔を背けた。そして、画面の隅で膝を抱えてしまう。
「何なんだこれは!」
 憤然と携帯を閉じ、返却してくる東海道に対し、そんなに嫌わなくてもいいじゃないと秋田は苦笑する。
「ただ睨んでくるだけ、しまいには後ろを向く、どこがかわいいんだ! それともこれは、今流行のぶさかわいいというやつか!」
 激高する東海道をまあまあとなだめながら、秋田は言った。
「あなたがモデルなんだから、そこまで言わなくても」
 ね? と。秋田は開いた携帯の待ち受けに語りかける。
「何っ!」
 東海道は再度乱暴に秋田の携帯を奪い取った。きゃっという小さな悲鳴をものともせずに、待ち受けにいすわる自らがモデルだというキャラクターを睨みつける。
「どこがだ!」
「ああ、今雨だから」
「なんだと!?」
「本格稼働の暁には、GPSの位置情報を使って今いる場所に応じた反応をするらしいんだけど、これ、まだベータ試験中だから」
 今、うちのあたりって雨なのよねぇ、と。そう言って秋田はためいきをついてみせる。
 ぐぐ、と。東海道は親の敵でも見るかのような表情で秋田を睨みつけた。秋田も彼のそんな表情には慣れっこなのだろう。返して、と。そう言っててのひらを差し出した。
「こんなものに人気が出るのか」
 ぎりぎりと歯を食い縛りながらの東海道に対し、そうねぇと秋田は首をかしげた。
「ユーザアンケートの結果、DSとPSPに移植されるらしいわよ」
 ぽかんと東海道は口を開いた。それに対し、非売品で支払いはJR系カードのポイントだけだとかなんとか、と、秋田はさらに追い打ちをかける。
「人気が出るといいわねぇ」
 秋田小町の笑顔に、東海道はぎりと歯を食い縛った。そして、そんなわけがあるかと、憤然と彼に背を向けた。



「どこでもてつどうだと?」
 西武池袋が驚いた表情で言った。ああ、と、それに対し西武新宿がうなずいて、携帯電話を開いてみせた。そして、今は無料おためし期間中らしいと言って、西武池袋に手渡す。
 画面の中では、ピンク色のうさみみの生えた三頭身茶髪のキャラクターが不思議な踊りを踊っている。かとおもうと、J-WESTカードって知ってる? と語りかけてきた。
「……なるほど」
 無言でしばしの間待ち受けをみつめていた西武池袋は頷いた。そして、西武有楽町へと携帯電話を渡す。おとなしくはしていたものの、興味はあったのだろう。小さな西武は両手で携帯電話を持つと、食い入るように画面を見つめ始めた。
「これは、いい」
 ふふ、と。西武池袋は小さな笑いを漏らした。
「我々もこれをつくるべきだ! そう、毎日、堤会長の秘密情報を教えてくれ、時にはかのご肖像をこっそり見せてくれる! すばらしいではないか! 今年の私鉄フェアは我々のものだ!」
 西武の技術力をみせてやれ! と。そう宣言し、西武池袋は高笑いをする。おおなるほど、と。他
の西武ファミリーのメンバーが大きく頷く。
「会長の秘密が毎日教えていただけるのですか?」
「そうだ」
 すばらしいですと表情を輝かす西武有楽町に対し、そうだろうそうだろうと西武池袋は頷いた。やがて。
 行け、西武のために! 西武万歳! 会長万歳! いつもの合唱が始まった。



 数カ月後、ヤフーオークションの画面を見て、それぞれになぜだと口走る二人の鉄道がいた。東海道新幹線と西武池袋線だった。
 ヤフーオークション鉄道カテゴリには、原価の数倍もの価格がついたどこでもてつどうJR高速鉄道編、DS版・PSP版がずらりと並んでいる。入札者もかなりの数が存在していた。
 どこでもてつどうJR高速鉄道編・携帯ゲーム機版は、購入方法がカードのポイント引き換えのみという設定になっているからだろう、転売ヤーが殺到し、ヤフーに限らずオークションサイトを賑わす羽目になってしまった。匿名掲示板には限定商法乙、相談サイトにはどうやったら手に入りますか
の書き込みがあふれている。予想以上の騒ぎだった。現在は、その騒ぎを鎮めるべく、別パッケージを鉄道博物館のみやげものの棚に並べる準備が開始されていた。とはいえ、もともとこれは副業の一環にすぎないのだ。一朝一夕に生産ラインが整うものでもない。しばらくは、品薄騒ぎが続くだろう。
 一方、西武は、西武メイトプレミアムコンテンツだった「どこでもてつどう西武池袋線」を、ベーシックコンテンツへと移行させていた。壁紙のダウンロード数と初期契約数は順調だったのだが、解約数が多すぎたとのことだった。キャラクターは可愛いんだけど、勝手に壁紙を変更するのは困る、と。アンケートの大半にそう書かれていたらしい。


fin.
作品名:どこでもてつどう 作家名:東明