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七瀬りおん
七瀬りおん
novelistID. 11757
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触れる熱に思いを込めて

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特別、何かしたいこともなかった。なので何か金になることがないか、と思い町を歩いていたら、無意識にバイルシュミットの家というよりも屋敷へと来ていた。
 気付いた時には玄関に立っていて、思わず額を壁に打ち付けたくなる。無意識で、というのが怖い。習慣づけというものの怖さを実感する。
 誰かに案内されるでもなく、自分で勝手に彼の働く執務室の扉を開ける。もちろん、ノックなんて儀礼的なことはしていない。
 ガチャリと扉を開き、正面を向くと美しい顔。眉間にしわを寄せて、不機嫌そうな表情をしているが、それさえもイケメンだ。デスクに向かい、顔をあげることはない。
「よっ」
「やはり、お前か…」
 はぁ、とため息をつかれる。顔を見ずに自分だとわかるなんて、あっちも慣れたようだ。
「今日はどうした?」
「ん?ヒマだったからな」
「そうか…」
 二対のソファの片側に寝そべるように座るギルベルト。寝心地は最高だ。この高そうな革張りのソファを売ったら、どのくらいの金になるのだろうか、と一瞬考えるが売ろうとは思わなかった。
「お前さ、ヒマなときって何してる?」
 ごろり、とソファの上で体勢を変え、うつ伏せになり、腕置きに顎を乗せ、バイルシュミッの方を見る。気難しそうな表情を浮かべていたバイルシュミットは一瞬、驚いて見せたが、すぐに普段通りの表情に戻ってしまう。
「ヴェストのことを考えている」
「なんだよ、ウソでも俺のこと考えてる、とか言ってくれたらいいのに…」
 からかうように笑うギルベルトに顔をしかめ、睨みつけるバイルシュミット。
「では、貴様は何をしてるんだ?」
「そりゃ…どうやったら、楽して金が稼げるかって考えてるにきまってるだろう?」
 人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべているギルベルト。それを見て、フッと笑うとバイルシュミット。バイルシュミットは執務に励んでいた左手を持ち上げ、その手に持っていたペンでギルベルトを指差す。
「まったく、貴様は相変わらずだな」
 嘲笑うような表情を浮かべ、自分を見つめるその瞳に見惚れる。
 なにをしてもさすが俺様、イケメンだ。
「何を笑っているんだ?」
「ん?さすが、俺様、イケメンだなぁ…って」
 今度はあきれたようなため息をつく。愁いを帯びた表情も、どんな表情も美形だ。絶賛するしかない。
「貴様は、本当に好きなのだな」
「へっ?」
 バイルシュミットの言葉に驚き、思わず起き上がってしまう。
「自分の顔が好きなのだな」
「あ、ああ…そ、そういうことか…」
「ん?なんだと思ったんだ?」
「いや、なんでもねぇよ…」
 ぶつぶつと何か文句を言っているのか口をモゴモゴとさせるギルベルトを眺めるバイルシュミット。その表情は穏やかなもので、眉間にしわを寄せることもなく、口元には微笑が浮かんでいる。しかし、その表情の変化にバイルシュミット自身が気づいていない。おそらく、それを指摘したところで信じないのだろう。
「貴様、うるさいぞ」
「あ?」
「仕事に集中できん」
「ケセ、それなら好都合。俺様に構えよ」
「……」
 いたずらっぽい笑みを浮かべたギルベルトはバイルシュミットを挑発する。表情がないように思われるバイルシュミットだが、やはり自分だからだろうか、微妙な表情の変化もすべてわかる。
「それか、俺様のこと黙らせてみろよ」
「ふむ…」
 すると、バイルシュミットは立ち上がり、ギルベルトの寝そべるソファへと近づいてきた。何をされるのか見当がつかないギルベルトは訝しげにバイルシュミットを見ている。
「ならば、黙らせてみるとするか」
「は?」
 どうやって、と尋ねようと開いた唇をふさがれる。手、ではない。ギルベルトの眼前には近づきすぎて、焦点の合わない視界いっぱいに見えるバイルシュミットの顔がある。
 唇に触れる熱の正体に気づき、ギルベルトは逃げようとするが、手で頭を押さえられているため逃げられない。

 あ、流される…

 もうこのまま身を任せてしまっても良いかな、と思った瞬間に唇が離れる。
「黙らせてやったぞ」
 勝った、と言いたげな表情で笑みを浮かべているバイルシュミットに苛立つ。
「こんな黙らせ方しかできないなんて、お前…エロいな」
「今さら、キスごときで騒ぐな」
 それ以上のこともいくらでもしているし、やってきたんだろう?と揶揄される。
「なっ!?」
 バイルシュミットらしくない言葉の羅列に驚くギルベルト。
「なんだ?もっとしてほしいのか?」
「黙れよ、バイルシュミット」
 言われて嫌なわけではない。だが、バイルシュミットに言われるのは不快だ。不快とは違うが、その感情の名前がわからない。わかる気もするが気付きたくもない。
「なら、今度はお前が俺を黙らせてみたらどうだ?」
 くすり、と笑うバイルシュミット。


むかついたので、弧を描く唇に噛みつくようなキスをした。





【触れる熱に思いを込めて】



End