二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

片想い二乗プラス確信、イコール

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
「信じられるかい?俺が静ちゃんを好きだったなんて。信じられないだろうね、正直に言えば俺だってまだよく分からないよ」

 そう話し続ける臨也の声が、まるで遠くで話しているように感じられる。表情はいつもと変わらないムカつく面なのに、その姿は、雰囲気は、どこか寂しげだった。


  片想い二乗プラス確信、イコール



 なんでこんな状況なのか、それはよく分からねえ。確かに言えるのは、自分の家に帰ってきたら確かに掛けた筈の鍵が何故か開いていて、部屋の中には臨也がいたということ。ソファーを陣取った臨也におかえりー、と妙に間延びした声を掛けられた瞬間、本当にキレるところだった。爆発する寸前で止まることが出来たのは、大事な話があって来たんだと臨也が辛そうな…そう、苦しげな顔を隠すように微笑んだからだ。いつものコイツらしくねえ、そう感じたら煮え繰り返るはずだった腸が突然動きを止めた。本能的な何かが、怒りを鎮めたのだろうか。
そうして何だか違和感を覚える臨也の口から飛び出したのは。

「俺は、静ちゃんが、ずっとずっと前から好きだったんだ。それこそ、学生時代からね。気付いてた?」

 詰る言葉でも暴言でもなく、愛の言葉であった。

 …あ?

 ずっと前から好きでした、なんて、俺にはかなり縁遠い言葉だ。…いや、それを発するのが女の子であるなら、少しだけ縁はあったような気がする。しかし今、それを言ったのは臨也だ。縁どころの話ではない。聞き間違いかと耳を疑うのが道理だろう。俺と臨也の仲なんて語る余地も有りはしない。ところが続けて発せられたのは冒頭の台詞。聞き間違いという可能性はぷっつりと消えた。そして今もなお臨也はクソ真面目な声で話を続けている。
 頭が、いてえ。状況を理解できない。何もできぬまま立ち尽くす俺を気にも止めない様子で、臨也はどこか空を見つめ、ソファーに座ったまま足を組み替えた。その話し方には感情が籠っているわけでもなく、ただ淡々と事実を述べているようにしか聞こえない。

「可笑しいよねえ、俺は人間を愛しているんであって、静ちゃんがどうとか、固有名詞が出てくるなんてどう考えたっておかしいのにね。俺は人間が無駄に足掻く様を遠くで見るのが大好きだ。でも静ちゃんは、足掻けば足掻くほど俺まで一緒に引き摺り込んでいくから、俺は傍観者ではいられない。本来はそうやって俺を巻き込もうとする奴なんて邪魔者でしかなくて、ゴミ以下の存在だっていうのに、静ちゃんはそのゴミという範囲に収まりきらない。いくら消そうとしても簡単には消えてくれない。全く、有り得ない話だよねえ」

 何時にも増して饒舌な臨也の声が二人きりの部屋に響く。話す内容としては少しばかり抑揚が必要な気がするが、その話し方は至って平坦だ。俺は臨也の言葉をこれ以上聞き続けることを放棄したくなった。

 …イザヤがオレのことをすき?
話を聞くことを止めるにしても、俺の脳は、思考を止めようとはしない。当然だ、突然言われる言葉にしては不自然すぎて、裏があるんじゃねえか、何を企んでいやがる、とかそういうことばかり考えてしまう。しかし、一方的に話を続ける臨也の顔は真面目で、というか辛そうで。それなのに言葉だけは淡々としているものだから、その不自然さが逆に真実味を帯びさせている。

 冗談だろう、気持ち悪い。そう思った。もし臨也が言っていることが本当ならば。臨也が俺を好きだろうが何だろうが、俺は臨也が憎くて憎くて仕方ないのだから、この愛のベクトルは成り立たない。勝手に想ってろゴミ蟲が。
 そう思った、筈だった。ところが頭の片隅で声が響く。今、臨也を突き放せば二度と戻ってこないかもしれないだろう。臨也がという存在が俺の前から消えたら、それに耐えられるのか。臨也が憎くて憎くて仕方ないと思っているからこそ、それと表裏一体のところにある感情に気付いていないのだ。
まるで俺に言い聞かせるような声。心にうざったく纏わりつくようなその声は、紛れもなく、俺自身のものであった。…おいおい、嘘だろう。

 それをきっかけとして、なのかは分からないが、俺の中で臨也に対する新たな感情が、ぼんやりと形を帯びてくる。いや、前々から存在していたのかもしれない。この感情が何を指すのか、俺はその答えを知っている。しかし、認めたいとは思えない。振り払おうとしても振り払えない、寧ろ自覚すればするほどますます大きくなっていく、この感情は。

「…そういうわけで、俺は静ちゃんが大好きだったんだよ」

 臨也の話が途切れた。良くもまあ一息に話せるな、と感心してしまうほどにぺらぺらと話していたのに。途端に部屋には沈黙が訪れる。臨也の目はやはり虚を見ていた。
 俺は改めて臨也の顔を、身体を見る。表情はどこかぎこちないように思える。いつもならムカつくその造形に、今は一片の怒りも出てこない。切れ長の目元も、意外に長い睫毛もすっと通った鼻筋も、緩く弧を描く唇も、よくよく見直せばそんなに悪いものではないような気がする。こんなに細かったっけ、と腰や手首の辺りを見れば、何だかどきりとした。
 沸き上がるこの感情は認めたくない。しかし、認めたくないという気持ちを更に否定する何かがあるのも確かだ。一人葛藤していると、臨也が緩慢な動作で此方を見た。そうして、緩く笑顔を作る。その笑みに抱いたのは、そう、言うなれば脆く壊れそうで、守らなくてはいけないという感覚。認めたくなくて必死にそう考えないようにしてきたのに、その笑みで俺の慎ましい程の努力は呆気なく崩れ去った。
――可愛い、と思ってしまうなんて。
 一辺が崩された俺の感情は、瞬く間に剥がれ落ちていき、最早認めざるを得ない。もうどうにでもなれ。これ以上うだうだと考えるのは、どうも俺の本分ではない。そうして感情に身を任せてしまえば、あっという間だった。

 ああそうだ、俺だってお前のこと、


「好きだった、っつーのは過去形じゃねえか。…今は、どうなんだよ」
「え、ああ、もちろん今も好きだよ?だからって何だっていうのさ」

 臨也はとても哀しそうな顔をした。ように見えた。そんな顔をこれ以上見たくないと感じたのは、いつもの臨也でいてほしいと思ったからだろうか。俺が求めているのは、何なんだ。

「ああ、ならいい」

 動かなかった、否、動けなかった身体は今はいとも容易く臨也の元に歩み寄り、彼の左手首を掴んだ。身体が勝手に動いたと言うのは嘘ではない。自分でもこの行動が俺の意思なのかどうか分からなくなっていた。
 彼の顎の辺りを右手で掴んで、ソファに押し付けるようにして上から口づけを降らす。抵抗するかと思われたが、臨也は為すがままになっていた。恐らく驚いて固まっているのだろうな、と考えながら、唇を味わう。少しかさついたそれはどこか甘いような気がして、こんな行為を仕掛けたのは俺の方であるのにくらりとした。

「…俺もてめえのことが好きだよ、多分。だからそんな顔すんな」

 顔を離してからこぼれた言葉は、まるで俺の放ったようには思えない。今日はアルコール類は一口も呑んでいないのに、酔っているような感覚。勝手に暴れだす心臓だったり、ともすると紅くなりそうな頬だったり。

「…ありがと」