戯れ事
薄暗い部屋の中にぐじゅ、と濁った音が響く。音は四木と俺の繋がった下半身から出ている。
何をしているのかと問われれば、まあセックスとしか答えようがない。真昼間からカーテンを締め切ってやることでもないけど。
あまり熱心とは言えない俺を見てか、四木が薄く笑う。
「気掛かりでもお有りですか」
「まさか」
「集中していただきたいものですね」
「これは失礼、…っ、」
唐突に勢いよく腰を上下させられて息が詰まる。
意地の悪い、と唇の端を吊り上げて苦言すれば、上の空の貴方よりマシでしょう、と事も無げに返事が寄越された。全く大した男だ。
内壁を擦り上げられる感覚に体温が麻痺してきた頃、喘ぎ声に混ざってドアの開閉音がした。
次いでヒュウ、と囃す口笛が聞こえる。
「日の高いうちから元気ですねえ」
「赤林さん…施錠はしてあった筈ですがね」
「そりゃ勿論ちゃあんと鍵で開けましたよ」
この通り、と得意気に鍵を揺らして歯を見せて笑う男は紛れも無く粟樟会の幹部だった。数回顔を合わせたことがあるが、正直なところ何でこんな男が、と思わざるを得ない。あくまで表向きは、の話だ。
「久しぶりだねえ情報屋の兄ちゃん」
「ど、うも……っは、ぁ、」
「…そんな声で鳴かれると興奮してきちゃう」
四木が思い切り溜息を吐く。下品ですよ、と咎める四木に、赤林は旦那には言われたくないねえとからから笑った。正論ではある。
「何しに来たんですか」
「つれないねえ。旦那の顔見に来たってのに」
「気色の悪い冗談は止めてください」
「えー…」
唇を尖らせる赤林に、子供ですかとぼやく四木を見ていると笑えてきた。くすくすと繋がったまま身体を揺らす俺を不機嫌そうな面が見据える。
「折原さん」
「すいませ……っあ、ゃ、しきさ、」
「旦那ぁ、八つ当たりはいけねえよ」
「もうあんたは黙ってて貰えますか」
「それじゃあ寂しいじゃないの、ねえ?」
「うぁ、あ、あ、…そ、かもし、れな、…っです、ね…」
「ほらぁ」
兄ちゃんもこう言ってることだしさあ、おいちゃんも混ぜて貰うとするよ。
そう笑顔で宣言する赤林に、勝手にしてくださいと吐き捨てる四木さんが可笑しくてまた俺は吹き出した。その後のセックスが散々だったのは言うまでもない。