向日葵畑
しかし、何だって向日葵なんだ、今は少し早いんじゃないか、と問えば、見に行きたくなったからだ、なんて答えが返ってきた。フンフンと鼻歌を歌いながら準備を進めているのを、何とはなしに眺めていると、次第に、まあ向日葵も悪くないんじゃないかと思えてくるかわ不思議だ。
見渡す限り、向日葵しか見えない。そもそも向日葵を見に来たんだから、見えないと困るのだが、あまりの広さに度肝を抜かれた。喪失感にもよく似ている感動を、今、我が身を以って感じている。多少のバラつきはあるものの、大概が2m程あり、大振りな花びらを惜し気もなく晒している。
「見に来て良かったでござろう?」
不意に掛けられた声に驚き、首をそちらに向けると、当然いるのは俺をここに無理矢理連れてきた男だ。質問を飲み込むまでに少し時間が掛かったが、その間こいつはいつものように和やかに笑っていた。
「こんなに綺麗だとは思わなかった。」
感嘆の溜め息と一緒に零せば、相手は満足そうにくっくっと喉を鳴らして笑った。いつもなら気に入らないその笑いも気にならない程、花は綺麗だった。今なら、英語で「Sunflower」と呼ばれるのも納得できる。確かに、小さな太陽が一面に輝いている。あの中に紛れ込んだら、きっと心地よい温もりに包まれるんじゃないかとさえ思う。
「なあ、知っておられるか。」
「何をだ。」
「向日葵は、実は食用なんでござるよ。」
見るだけじゃ、足りなかったのでござろうか。
そんな事を聞かれても、俺には何とも答えられない。切なそうに目を細めて向日葵畑を見渡すその姿は、もう何かを悟り尽くしたような雰囲気を纏っていた。見て、それで足りなくて我が身に閉じ込めた、そんな先人の思いを代弁しようとでもいうのか。
「愛、というものは、いつの時代も重く悲しいものでござるなあ。」
向日葵畑
(愛、なんて、そんな綺麗なもので鍍金しないでくれ)