蛙は口ゆえ蛇に呑まれる
すい、と目を離されたら、さっきまで怖かったはずなのに赤いアイカメラが僕を見ていないのがなぜか淋しくて、あ、と小さく声を漏らしたらまたこちらをみられた。やっぱりそれは怖くて、意味もなくごめんなさいと謝って俯く。そしたら苦笑されたような気がして、でもその直後に溜息だったような気もして、俯いた顔を上げようかどうしようか悩んでから、溜息でも大丈夫かなってくらいにちらりと顔を覗いた。瞬間、顔を元の位置まで戻す。ただ単に怖かったのか、それとも呆れられているかもしれない事が悲しかったのかは分からないけど、じわりじわりと涙が滲み出てきて零れ落ちそうになる。落ちちゃったら泣いてる事に気付かれるし、手で拭っても気付かれるしで絶対心配かけるのは分かってるから必死に目を閉じて涙が零れないようにする。
不意に頭に心地よい重みを感じた。思い切って頭を上げれば、大きな手が頭をすっぽり包み込むように乗せられていた。仄かな温もりが薄い装甲越しに伝わってきて、ついさっきまで処理などしきれない事を考えていた回路にまで伝わる。潤んでいるアイカラメすごい近くで見られて、今度はコアが煩くなりだし、どうか聞かれませんように、というささやかな願いは、どうか聞き入れてもらえたみたい。目の前の端正な顔は、いつものそれとは全然違うとてもとても優しそうな笑顔で、こんな顔もできるんだ、なんて思ってみたりして。緩く頭を撫でられて、頬に熱が集まるのが分かって、さっきまで泣いていたのにもう真っ赤だって言われるかなと思えば、本当に言われちゃった。
何も心配しなくて良いという優しい言葉と、怖くて赤いアイカラメと、一体どっちが本当なのか分からなくなって、結局愛してるという甘い言葉に耳を傾ける事にじた。
蛙は口ゆえ蛇に呑まれる
(真実かどうかなんて口にしてはいけない)
作品名:蛙は口ゆえ蛇に呑まれる 作家名:はづき。