二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

錆付いた隣人へ

INDEX|1ページ/1ページ|

 
いざ兄ならまだ、スリーピングビューティーだよん。眠…。
これだけを告げて忙しい朝に戻っていく双子の、毎朝お決まりの挨拶を貰って臨也の部屋に足を運ぶ。
障子に耳あり、隙間に双子あり。長馴染みの妹らは今朝もマイペースを保っているのは喜ばしい。しかしまあ中心に居る当人は、受け身の姫でいいご身分だこと。

無気力な長馴染みの髪の毛が今朝もあらぬ方向へ、意識を宿したかのように溌剌としている。低血圧だというが、その限度を超えた虚ろな瞳はどんよりした曇り空を思わせる。
何もかもを万能に極めそうな高スペックを持つのに常日頃、崖先まで立たされないとびくとも動きはしない意固地というか引っ込みがちな処がある。
涙腺は見る者をぎょっとさせられる程に脆い。この所為で何時もどことなく瞳が充血して赤く、その様はまるで頼りない兎を彷彿とさせる。ひたひたと流れ落ち続ける涙によって、その内水溜まりが出来るか瞳がとろけてしまいそうである。
これだけでも随分個性的だという認識が成立してしまいそうだが、整い過ぎた甘く冷たい美貌に上乗せし、声が人を引き寄せては離さない、極上の音を持つのだから始末に悪い。
無感動に佇んでいるだけでも外身に惹かれた異性のみならず、その手の嗜好もない同性も吸引される。声を一度でも聴けば、中毒になる。
勿論意図も目的もないのが常時なので、対処に手間取り困る。主に惰性で隣に居る自分がである。
だがそれでもお節介焼きの自己がいただけないと言われるのが、本音で言えば最も心外だ。

「あのね帝人」
「なあに、臨也」
投げて帰って来ないことのない、必然の呼応が自分達の日常であるというのに。

一人で生きていけるのかなとふいに思えば、大いに心配な要素がてんこ盛りで顔が青くなるのが容易く察することが出来る。
責任が自分に少々、いやちょこっと在りそうなのであともう少しだけ、己に替わり支えてくれるしっかりした人が臨也に現れるまで、傍らに居てあげようかとは常々思う。
世話焼きというよかお人好しだよねえ俺の長馴染みは、との一定の評価を隣から受けているのを、知ってはいるけども。だからといって、今更どこうしたり反論する気力が僕側には当然ないのだ。
だから臨也、僕は隣で待っているからね。



待つこと幾年後にて流石に、様々な手順を通り越し艶やかで麗しい声で、毎朝俺に味噌汁作って欲しいなといった言葉を貰ったのには呆れたが。既に毎朝起床時から始まるつむじからつま先までのお節介を継続し、欠かさずに焼いているのに。長馴染みの枠を超えるには不十分である。
しかも恋とは戦なのだ。手段は不問。声について自覚と自負があるからこそ強制させるように仕向けずに、本当の気持ちが欲しかったのだろうが、此方から言わせて貰えば偽物だって気迷いだっていいではないか。言質を取れる。手札が増える。
臨也は何時でも及び腰。決定的な言葉を言わないのが紳士な接し方だと迷信してしがみついている。恐らく本人にしては、積極性は命取りなのだ。なに、その恋に恋した無駄足の多い思考。不満過ぎて猛抗議。
それこそ第三者の参入する隙間のない距離を保ちながら、わざと其処から意識を逸らしているのだから報われない。そんな風に露わにさせないままの、見て見ぬフリすら継続を怠らずにいる故にもう一押しと、甘えた贅沢を一つ乞う。
だがまた、訂正の求め方を思案してしまうのだ。平均的な価値観によるものだが、すきなひとの涙なんて、此方としてはなるべく拝みたくはないので。

早くも潤んできた瞳にどうしても、弱い。
作品名:錆付いた隣人へ 作家名:じゃく