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【グッコミ】おもちゃばこのロンド【サンプル】

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ギルベルトには、弟がいた。
 ぎんいろの髪にあかい目を持つギルベルトとは対照的に、きんいろの髪とあおい目をした弟。名前は、ルートヴィッヒ。
 年はギルベルトよりも八つ下で、年の離れた弟はギルベルトにとって時に息子のようでもあった。ギルベルトは彼を弟として家族として、恋人として愛していた。愛していたのだ。世間一般の常識と照らし合わせれば、異常と言っても過言ではないほどに。ルートヴィッヒもギルベルトを兄として家族として、恋人として愛してくれて、彼ら兄弟は本当に幸せだった。
 ギルベルトは人形を集めることを趣味としていた。乱雑な言動に反して几帳面な性格をしているギルベルトは、決まった物を集めることが好きだった。長い髪をした女の人形。短い髪をウェーブさせた少女の人形。甲冑に身を包んだ屈強な戦士の人形。幸せそうに微笑む少年の人形。様々な人形を集めた。ルートヴィッヒもギルベルトの趣味に関しては何も文句を言うこともなく、むしろ「この人形、おまえに似てる」と嬉しそうに金髪碧眼の人形を買い集める兄を、少し恥ずかしそうにしながらも笑っていた。
 好きだ、と言えば、俺もだ、と返してくれる弟を、ギルベルトは本当に愛していた。年が離れているわりにしっかりと自分を持ち、けれどどこか抜けている、まだまだ兄である自分がいてやらないと駄目だと思う部分を持った弟を、愛していたのだ。
「ルートヴィッヒ、愛してるよ」
「ああ、兄さん。俺も、……その」
「なんだよ、言ってくれねえの?」
「……あいしてる」
 耳まで真っ赤に染めて、けれどギルベルトから視線を逸らすことなくじっと見つめ、ルートヴィッヒは呟いた。兄さんが好き、あいしてる、ずっと一緒にいて。子供が親に甘えるようにぎゅっと抱きつき、恋人が恋人に甘えるときの緩やかな愛を滲ませてキスをした。
 その穏やかな日が突如終わったのは、もう十五年も前のことになる。




***




 毎日毎日愛され、ルートヴィッヒと呼ばれ続けたその人形には意識が芽生えた。かわいいルートヴィッヒ、俺の弟、あいしてるよ。そう囁かれ続けた彼は己が『ルートヴィッヒ』であることを知り、ギルベルトの『弟』であることを知り、彼を兄と慕い、焦がれることを知った。
 かわいいルートヴィッヒ。俺の宝物。あいしてる、ずっと、ずっとおまえだけを愛してるんだ、なあ、ルートヴィッヒ。あいしてる、すきだよ、俺のかわいい弟。今日も、一緒にいられたな。嬉しいよ。もうどこにも行くんじゃないぞ。
 毎日毎日、飽きもせず囁かれ続ける言葉を聞くたび、ルートヴィッヒはギルベルトへの思いを強くしていった。その言葉ひとつひとつが、自分そのものに向けられている言葉だと信じて、疑うことなど無かった。疑う、ということを、ルートヴィッヒは知らなかったのだ。ギルベルトから与えられるものが全てで、ギルベルトが与えてくれるものしか知らなかった。それだけで十分だった。
 ――あいしています、兄さん。あなたの人形でいられることが、何よりも嬉しい。
 ギルベルトに直接届くことのない想いが、感情が、言葉が、ルートヴィッヒの中に生まれ、そして蓄積される。そこに溜まっていく想いは全てがこの限られた狭くちいさな世界でのみ構築されたもので、ルートヴィッヒの世界はギルベルトが己に見せてくれる世界だけだった。それしか知らなかったし、それ以外は必要なかった。
 狭い世界。ちいさな世界。それだけだった。だから、気付くこともない。ギルベルトが人形のルートヴィッヒに笑いかけ、慈しみ、あいしていると何度も囁くそのとき、彼の赤い瞳には人形のルートヴィッヒの姿など映っていないということに、気付くことはなかった。己が愛されているとしか思っていないルートヴィッヒには、ギルベルトが彼の向こう側に今はもういない弟の姿だけを見ていることなど、気付くことはできなかった。気付く必要も、ないのかもしれないの、だが。





+++
 ギルベルト(人間)×ルートヴィッヒ(人形)の、パラレル。
 グッコミC54a『ネリリ、キルル、ハララ、』にて頒布予定。