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君よりも君を愛する/

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「あ」

 そんなあっさりとした呟きに、今し方ボールを奪った先の相手へフィディオは振り返った。そうすると真っ赤な血を流しているマークが微動だにせずに立ち尽くしていた。いつもよりも前屈みになって、鼻からしたたる血を服につけないようにという謎の配慮はしているものの、鼻を押さえるだとか上を向くだとか、そういった適切な処置はしていない。

「マーーーク!!」

 ディランが駆け寄っていってオロオロしだした。当の本人は至って冷静、というよりも何も考えていない様子で地面を赤く濡らしていく自分の血液を眺めていた。

「おいおい大丈夫か?ってか上を向けよ」
「上を向いたら喉に血がいくから嫌だ」
「マークどうしたんだい!?エッチなことでも考えていたのかい!?」
「誰もティッシュ持ってないよな……」
 テレスの心配に答え、ディランをスルーし、途方に暮れている様子のマークは、服に汚れが付くのが嫌なのか、身動きが中々上手く取れずに変な動きをしている。円堂が「呼ばれてた!」と言い残してこのフィールドを出てからそんなに時間は経っていない。夕日は沈む寸前で、マークの白い肌を扇情的に照らしていた。
ボールを放り投げたフィディオは駆け出していた。マークを囲むような二人に割り込んで、完全に下を向いて鼻血がおさまるのを待っている相手の真正面に立つと、ポケットから取り出したハンカチで、汚れた口許から上へ拭っていく。マークは驚いた様子でハンカチを押さえ付けてくるフィディオに抵抗していた。

「汚れ、とれなくなるぞ」
「こんな布きれ一枚よりも、マークの血が流れてしまうことの方が大変だよ!」
 呆気にとられていたのはマークだけではなかった。残り二人もフィディオの豹変振りに言葉を失っている。
「ディラン、ジャパンの宿舎でティッシュを貰ってきてくれないか、テレスは冷たい飲み物買ってきて」
 断固として上を向きたがらないマークの鼻血は未だおさまらなかった。流される形で二人がその場を離れていく。

「鼻血一つで大袈裟だ」
「血は生命の源だよ。この血が、マークの中でマークを生かしている。だから俺は、血の一滴でも惜しい」
「哲学的なことを言うな。まるで口説かれているかのようだ」
「俺はマークが欲しいから、この血の一滴でも流れてしまうのが惜しいって意味」

 数秒、言葉の意味を思考している内に、鼻血の勢いを確認するため少しハンカチを離される。その時、自然とまた俯いていたマークの上唇についた血を拭うように舐めたフィディオの行動に、自分の至った結論が間違いではないのかも知れないと思考したマークはその瞬間、一向に止まらない鼻血のことを忘れ去っていた。




作品名:君よりも君を愛する/ 作家名:7727