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久住@ついった厨
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novelistID. 1078
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お決まりの文句で君を殺す

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目を覚ましたのは、何も寝苦しかったからではない。クーラーは静かな音を立てて室内を快適な温度に保っている。ならば何故なのか。俺は電気も付けないまま、その原因に手を伸ばした。
 暗闇の中、着信のサインを光らせているのは枕元に置いた携帯だ。寝静まった部屋では最小音量の着信音も雷鳴のように響く。その騒々しい音を消す為に取り上げてフラップを開く。
 画面に表示される名前は、覚醒した瞬間から頭にあったものと全く同じだ。厄介な相手な為、唯一着信音を変えている人間からのコール。いつまで待っても切れないそれを取るべきか切るべきか、はたまたいっそ着信拒否するべきなのか、俺は暫し悩む。
 名前と睨み合うこと約三秒、結局指は通話ボタンを押し込んでいた。携帯を耳元に持って行くよりも早く、電波に乗って声が届いてくる。
「ちょっとトラブっちまってさ…泊めてくんねぇ?」
 聞き慣れた声が聞き慣れたフレーズを紡ぐ。今この瞬間、一番聞きたくなかったものだ。
 通話ボタンを押したことを早くも後悔してしまう。どうせそんなことだろうと思った。だがふざけるなと切る訳にもいかない。電話に出た時点で、俺は無意識にでも応じる心積もりだったのだから。そういう用件以外で連絡を寄越された覚えなど、ここのところまるでない。
 わざとらしく溜め息を吐くと、電話の向こうで微かに動じるような気配がある。いつどんな時だろうと俺が拒まないのを信じ切っている様子だ、好意的でない態度を取られることなど予想もしなかったに違いない。
 あぁ、このまま切ってやれたらどれだけいいだろう。着信があったことなど忘れて、再び眠り込んでしまえたら。
 そんな思考は脳内のみに止どまる。実際に行動に移すことは、ない。出来る筈がない。それを見透かされているのは腹立たしいが、仕方あるまい。相手は俺よりも俺のことを知っているのではないかという人物であるので。
 しかし素直に受け入れてやるのは少々癪だ。せめてもの悪足掻きをすべく、俺はゆっくりと口を開く。舌に乗せるのは嫌味を存分に含んだ言葉だ。意にも介されないのだろうと思いつつも言わずにはいられない。
「今何時だと思ってる…非常識にも程があるぞ」
「あ? あぁ、二時過ぎか。寝てたんだったら悪かったな」
「こんな時間に起きている方が稀だ。少しは人間の生活に溶け込む努力をしてくれ」
 刺々しい口調にしようと努めるが、どうも上手くいかない。職場ではそんなつもりもないのに威圧感で人が殺せるだの何だの言われるというのに、不便なものだ。若干要領が悪いと評されるのはこういうところからなのかもしれない。
 携帯は向こう側で零されるぼやき声を微かに拾って伝えてくる。お前は俺の母親かとか何とか、ぶつぶつ言っているようだ。文句があるのなら俺に頼み事などしなければいいものを。小言を言われるのは分かり切っている。それが嫌なら広い交友関係の中から、こんな時間に押し掛けても文句を言わない友達を頼ればいい。
 やれやれと思って放置しているとぼやく声はふと止まった。それからたった今我に返ったかのような調子で、ところで、と切り出してくる。
「開けてくんねぇ? 今お前ん家の前なんだけど」
「………少し待ってろ」
 辿り着いてから電話を掛けてくるなんて、とは言わない。今更だ。突っ込んだのは最初の一、二回のみで、それ以降は諦めるようになった。何を言っても無駄だと学習するのに長い時間は必要なかったのだ。
 終話ボタンを押して畳んだ携帯を枕元に放る。寝室の明かりは消したまま、俺はのそりと立ち上がった。自室ならば暗がりでも何とか躓かずに歩くことが出来る。難なく扉に辿り着いて、リビングへ。そこの電気だけは取り敢えず点けて、玄関へと足を差し向ける。
 マンションの短い廊下の先、硬く閉ざされた扉の向こうには最後に見た時とほぼ変わらない姿が俺を待っているのだろう。そこまで考えて頭に浮かんだのは、実に人に見られたくない光景だ。妙な噂を立てられては適わない。不本意ながら早く中に入れることにする。
 ドアチェーンを外し、鍵を開ける。ノブを回していつもの動作で押し出せば、扉は僅かな軋みを上げながら開いていく。
 人が滅多に通らない時間帯には照明の光を減らしてある為、廊下は薄暗い。そのぼんやりとした光の中に、目当ての姿はあった。携帯を片手に胸の高さ程まである廊下の壁に凭れ掛かっている。ディスプレイから漏れる光に照らされる顔は白く、夜闇の中では病的な雰囲気さえある。俺に向けられた目は紅──本当に人間なのかと疑いたくなる色だ。
 にっと口元を歪め、男は声を上げた。
「遅ぇよルッツ」
「急に来るのが悪いんだ……兄さん」