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世は事もなし

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迷路の様に入り組んだ首都高を数台のベンツで走る、闇の中に紛れるように黒く塗られた車は気紛れに照らされるライトの灯りでようやくその姿を晒す。池袋という街には不似合いな光景だが首なしライダーと噂される生きた伝説がバイク一台で存在を誇示出来るのだから彼らもまた存在を許されているようなものだ。
車内から行き交う車を眺めていると不意に手が伸びる、煙草の箱から一本だけ差し出されたそれを受け取るとどうもとだけ呟いてライターで火をつけた。紫煙が影を伸ばし、ようやく脳が覚醒した気がする。

車内には運転手を含めた数名の男が二人、珍しく抗争じみた事になったおかげか互いにスーツはボロボロだ。

「・・・参っちまいますねぇ、こうも激しいと」
「その割、楽しんでたじゃないですか。赤林さん」
「四木の旦那には言われたくはないですよ」

後部座席に座るのは対照的な白と赤を纏う男達。

一人は赤い髪、赤いスーツ、サングラスの下には焦眼と杖を持ち歩く。ヘラヘラとどこか楽しげな風貌で居ながら一度、怒れば間違いなく赤い鬼の名に相応しい牙を剥き出しにするのだろう。だが、敵に回さなければ女子供や若い衆にも人当たりの良い妙齢の男だ。
もう一人は白いスーツの中に黒を纏う、剃刀のように一見恐ろしい風貌だが堅気の人間にはあくまで紳士的な細身の男。赤林と同じく粟楠会の幹部の一人、四木だ。どちらも粟楠会にとってはなくてはならない存在と言われている。

彼らが共に並び、後部座席に座る様はどこか異質ではあるが粟楠会の者達からすれば見慣れた光景だ。赤と白、激しさと静けさ、まるで表と裏の様に並ぶ二人が共に会する事をむしろ、光栄に思うだろう。

「それにしても今日は時間がかかりましたね、処理が追いつくとよいのですが・・」
「そこらへんは旦那に任せますよ、俺は暴れる担当ですからねぇ」
「赤林さん、貴方の尻拭いだけは勘弁ですよ」
「ん?俺のお尻は旦那が拭いて下さるんで?こりゃ、いいや!どうぞどうぞ、ご随意に」
「・・・怒りますよ」
「ははっ冗談ですよ」

煙草を銜えたまま一瞥すれば、怖い怖いと両手を上げて赤林は降参してみせた。どこぞの情報屋の真似でもしているのだろう、彼と粟楠会は通じている部分が多い。いい意味でも悪い意味でもだ。鴉の様に黒い髪、赤い眼、新宿に席を置く情報屋。どこか四木と重なる部分が多いと言えばどんな反応をみせるだろうかと赤林は思う。
差し出した箱を自身の胸ポケットに収め、ライターを捜す。だが一向にライターはその姿を現さない。パタパタとスーツを弄るうちに四木が怪訝な顔をしてこちらを向いている気がした。どうやら先ほどの抗争の時に落としてしまったのだろう。Zippo製の鋼のライターで気に入っていたのだが無くしてしまったらしい、代わりのライターはあるが長く使っていただけあって思い入れのある一品で自然と舌打ちが漏れた。

「火、頂けますかねぇ」
「どうしました、いつも使っていたものは落としましたか」
「そうみてぇです、参った参ったついてない・・・長く使っていたんで思い入れもあったんですがねぇ。触ると女の肌みたいに俺の手にぴったりフィットしてくれてアレで煙草を吸うのが楽しみだったんですが」
「それはご愁傷様です、・・・私の火でよければ構いませんが」
「そいつは有り難てぇ、ちょいと失礼しますよ」

不意に赤林の顔が四木の眼前に近づく、煙草を銜えたまま四木は微動だにせず赤林の顔をみつめていた。ライターを差し出そうとしてやれば、すぐこれだと内心で呆れる。この男はいつもそうだ、無遠慮にこちらに近づいて思わせぶりな顔で散々掻き乱してそうして去って行く、その繰り返し。
煙草の切っ先に灯る火が赤林が銜える煙草に引火する、移る火はじりじりと紙を焼いて、口付けるように焼き付く。サングラス越しの左目がこちらを捕食する様な色を灯したのをぼんやりと眺めていると数度、貪る様に何度も互いに煙草をぶつけ合ってどちらからともなく、離れた。

「旦那、ご馳走さまです」
「ーーお粗末様です」

夜で良かったと四木は心底思う、近づいた赤林の息遣いと顔立ち、気紛れに香る彼の香水の香り、血と汗と硝煙の香りがやけに鼻について知らず頬に熱が集まる。生娘でもないだろうにと苦笑して溜め息を吐くと隣でくすくすと楽しげに笑う赤林の姿があった。
抗争が終わった夜はいつもよりも昂っているというのに煽るように四木を弄んだ赤林は実に上機嫌に笑っている。悔しいような彼らしいような気がして苦笑しながら再度、新しい煙草に火をつけると彼の眼前へと迫り、火を奪う。何も欲しがっているのは貴方だけではないのだと知らしめるよう。

どこまでも意地の悪い男だ、火を着けたのは彼方だろうに。
じりじりと焼ける紙は紫煙を纏うと夜の闇へと溶け込んでいった。
作品名:世は事もなし 作家名:b a n