ワルツが踊れない
なんだってこんな面白くもなんともない映画をわざわざ借りてきたのかと問いただすと、自分の分のドーナツを食べながら「これ、」とディエゴがテレビを差す。その先では、主人公とヒロインがパーティーでワルツを踊っていた。これが観たかったんだというディエゴの声を聞きながら幸せそうな笑顔でくるくると回る二人を眺めたジョニィは、ディエゴの言わんとすることがわかった。「君、本当に性格悪いね」苦虫を噛み潰したような顔で言ってもディエゴには何の意味もない。誹謗中傷には慣れているのだ。最もそれはジョニィも同じだったので、言い返しはしたがこの程度の嫌がらせは屁でもなかった。交通事故にあって足が動かないのは今更だし、確かにワルツは踊れない。確かに事故にあった当初はものすごく荒れたし些細な言葉にも罵声で返したが、三年目ともなればなんともない。
それよりもジョニィは、どうしてディエゴが今更こんな嫌がらせをしたのか気になった。足が動く頃からディエゴとは喧嘩するような仲だったしこうなってからもそれは変わらないが、思い返せば足についてディエゴが何か言ってきたりしてきたことはないんじゃないかとジョニィは思った。その代わり励ましの言葉もなかったが。「ねぇ、なんで今更こんなみみっちいことするの」先刻と同じようにディエゴの肩に凭れながらそう尋ねると、一度でいいから足についての嫌がらせをしてみたかったのだと笑いながら言ったので、ジョニィは思い切りディエゴの髪を引っ張った。
(20100819)