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もっと特別なことだと思っていたんだ

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うだるような真夏の暑さの中、照りつける太陽にアスファルトの放射熱が反射してますます熱さを増す、田舎が涼しいとは誰が決めたのだろうか。外場村が盆地であるせいなのだろう。容赦のない太陽の熱とむし暑さで立っているだけでも汗が吹き出てくるようだ。息を吐いて額の汗を拭うと気を取り直して歩き出す。
どこまでも広がる山と畑、何も無い道路には点々と農作業をする人達が居て誰もが顔見知りなせいか立ち話が絶えない。学生服姿の夏野が通り過ぎるとそれまで話していた話題から夏野の話題へと移る、余所者はいつもこうだ。どこへ行っても目立つしどこに隠れようとも村に居れば村から逃れられない。

まるで囚人監視の檻の中のようだとも思う。檻の中には罪人ではなく村人がいるだけ。
誰もが誰かを知っていて知らない者の方が稀でどこへ行っても村がまとわりついてくる。
何もかもが煩わしい、監視し合うように互いをみている大人もそれに馴染む子供も。

何を好き好んでこんな何も無い場所を選んだのか、父親への恨み言を口にするのも飽きて溜め息と一緒に前を睨む。何も無いこの風景とこの場所からいつか絶対に逃げ出してやると願いを込めて。夏野は背筋を伸ばし、熱い太陽の下、歩き出した。


親が子供のために都会から田舎へと暮らす為に引っ越したというのはどこまでが本当なんだろうか、子供のためを思うならわざわざ引っ越して環境を変えるよりもそのままの環境で庭を整えるなりすればいいだろう。これなら都会で一人暮らしをした方がマシだったとさえ思う、これでもう何度目なのだろう。
出逢いと別れを幾度無く繰り返し、最初は期待して返していた手紙もパッタリと止んだ。今は携帯電話があるからメールに手段は変わってもそれは同じだ。去るときはあれ程寂しげに語っていた旧友達も時間が過ぎればいなくなったクラスメイトなどに時間を裂いてなどくれない。
会いに行ったところでもうそこに自分の居場所はないのだ、期待が落胆に変わり、現実を知った頃には誰とも親しくならないよう、いつまた場所が変わっても順応出来るよう切り替えだけが上手くなっていった。周りから見ても冷めていると思えるのだろう、現に自分でも冷めきっていたのだから。

この村でも誰とも親しくならないようにしようと決めていたのにどうしてか、
一人だけ名前を呼び、親しくなってしまった。

「夏野、乗ってくか?」
「徹ちゃん」

仮免中と書かれたプレートの車に乗り、看護婦の国広律子と共に車から顔を出したのは年上ではあるが同級生の武藤徹だ。皆から徹ちゃんという愛称で呼ばれ、夏野もそう呼んでいる。癖のある金色の髪に少したれ目がちな優しげな顔立ちの青年は夏野を呼び止めると車に乗れよと誘う。夏野もその申し出を断るわけもなく、後部座席へと乗った。
以前もこうして乗せてもらったのだがやはり歩きよりは冷房の効いた車で学校に行けるのは有り難い、冷たいクーラーの風は暑さでじっとりとした夏野の体を和らげてくれる。前では談笑する徹と看護婦の律子が楽しげに会話していたが右から左に流して風景を眺めながら目的地まで送ってもらった。

「夏野、今日も寄ってくだろ」

車から降りて軽く振り向きながら頷くと徹はにこりと笑って戻って行った。最初は些細なきっかけで知り合ったがいつしか夏野から徹の家に遊びに行く機会が増えた、別に約束はしているわけじゃない。用事がなくてもふらりと立ち寄っては徹の家で過ごす時間が増えた。

「・・・徹ちゃん」

何もないつまらない村で唯一、楽しいと思えるものが彼の事だと思うと馬鹿馬鹿しいと一笑して暑さの中、学校へと足を向けた。



夏野はあまり口数の多いタイプではない、進んで話そうともしないしかといって無言で居るようなタイプでもないがこちらから投げかければ返すし反応はしてくれる。家の事情と夏野自身の性格からどこか他人を遠ざけるようになってしまったのだろうと思う。
大人からすればそうでもないかもしれないが子供にとって環境の急激な変化はかなりストレスを伴う事が多い、新しい場所に馴染むのも新しい場所に住む住人達に馴染むのも一から関係を築くのも難しい。子供達なら尚更だ、こんな田舎町ではあっという間に伝わって嫌われるのも一瞬だろう。
別れたりくっついたり、そういうのすら嫌になるような事が夏野にあったのかは聞けないがもし自分が夏野の立場なら気持ちはわからなくもない。だけど、それはやっぱり少し寂しい気がした。いつか別れが来るかもしれないけれどその間に築けるものがあるなら、僅かでも残せるなら誰かの心に自分が繋がっていたという証を少しでも残したいと思うのは欲張りなのだろうと苦笑する。

「なぁ、夏野」
「何?徹ちゃん」
「おいで、夏野」

クッションまで置いて隣に来る様に誘うとベッドの上で雑誌を片手に寛ぐ夏野は目を数回ぱちくりとして呆れた様に息を吐くと本を置き、徹の敷いたクッションの上に座る。大人しく座る夏野をぎゅうと抱きしめれば、自分と違う細く低い体温が伝わってくる。

「・・・徹ちゃん、なんなの」
「いいじゃん、減るもんじゃないし。俺が夏野にこうしたかったんだよ」
「徹ちゃん暑苦しい、恥ずかしくないの?・・・犬みたいだ」

眉間に皺を寄せて嫌がる素振りを見せるが抵抗はしない、夏野に抱きついて甘える様に擦り寄ってみせれば苦笑しながらも徹の髪を夏野は撫でる。耳と尻尾が生えていたなら徹はきっと犬だろうな、大型犬で人懐っこいの。そう思って珍しく口元に笑みを浮かべた。

「なぁ、夏野」
「名前で呼ぶなって言ってるだろ」
「俺が呼びたいから呼ぶの、あのさ夏野。夏野が村に出て行っても俺は夏野を忘れないよ、絶対」
「今日は本当になんなのさ、ちゃんと説明しろよ。・・・まぁ、俺も徹ちゃんの事は忘れないだろうなって思う」

不意に夏野の頭が徹の肩に預けられる、まだ男性らしくはない夏野の体は華奢で細い。ちゃんと飯を食えと言っても食欲がないとあまり口にしない夏野の体は繊細に出来ているのだろう。徹とは違う、髪も顔立ちも柔らかで体からはシャンプーの香りに混ざってどこかいい匂いがする。汗の香りもするが抱き合ってみれば一層、夏野の香りを感じた。
夏野の体をクッションに押しつけて口づける、甘い、甘い、口付け。細く低い体温に熱を分け与える様に軽くチュッと音を立ててキスの雨を降らせると気恥ずかしいのか、静止しようと手が邪魔をする。その手を捕らえて手の甲にキスをすれば顔を真っ赤にさせて睨まれた。

「夏野、可愛い」
「うるさい、徹ちゃんのスケベ」

ほんのりと上気して赤くなる頬に口付けて床の上に転がって抱き合った。くすくすと笑うと夏野もつられて笑い出す、そうして互いに見つめ合うとどちらからともなく深く口づけた。ベッドまでは少し遠いけれど、たまにはこういう触れ合いも良いのかもしれない。


十代半ばの夏は暑い、若いという事は未来があってもっと特別な事だと思っていた。小学生の頃、誰もが思った様に未来は明るく続いて行くものだと信じていたし、そうなるだろうと思っていた。例え将来をどうするか決めなくてはならない時期が近づいていたとしても現実感は全くなかったし、楽天的にどうにかなるだろうとも思っていた。