覇十覇の日!
「おかえりっ」
「……ただいま」
やってきた彼に笑顔を向けると、無表情が少し緩む。近づいたところで抱きつくと、ゆっくりと腕が回された。
「今日は何をしたんだ?」
「……特に、何も」
「でも、デュエルしたんだろ」
「……多少は」
ようやく聞こえる程度の小声だけど、話しかければ答えが返ってきて。孤独な時間を埋めるように話を続けた。
「いいなあ覇王とデュエル。オレもしたいー」
「駄目だ」
にべのない返事に頬を思いっきり膨らませる。ここに来てからは一度もカードに触れていない。
「なんでだよ。他の奴とはデュエルするんだろ。オレとだって――」
言葉の途中でキスをされて、抗議する間もなく押し倒される。無表情の中で、見下ろす金の瞳だけが熱っぽく、心の奥まで焼き付きそうだった。
「この方がいい」
「……はぁ」
熱を吐き出すように呼吸を繰り返すと、彼は少し眉を下げた。
「十代は、嫌か」
「嫌じゃないけど――ぁ」
もう少しだけ他愛のない会話を楽しみたい、と言う前に唇を塞がれて。抗議を許さないように、きっぱりと言い切られた。
「ならば問題ないだろう」
「ん……」
半ば強引に身体を開かされて、肌にひんやりとした手が触れる。軽く撫でられただけで理性が飛んで、しばらくの間享楽に溺れる。気が付けば寝ていたらしく、彼の声で意識が覚醒した。
「行ってくる」
別れを惜しむような言葉にぎゅっと抱き返すと、起きていたのか、と呟きが聞こえる。肌を触れ合わせるには彼の服が邪魔をして、もどかしい気持ちで問いかけた。
「なあ」
「何だ」
「やっぱり、外に行っちゃ駄目なのか」
「……すまない」
いつもと変わらない答えは沈んだ口調で、罪悪感に苛まれる。少し腕に力を込めると、首筋に顔をうずめる。
「いや、オレがわがままだった。ごめんな」
「……また、来るから」
「ん……待ってる」
それだけ言って体を離す。外に出た彼が何をしているか、大体は察していた。それが非常な罪であるという事も、自分の為である事も知っていた。だからといって、彼を責めるつもりはなかったし、自分を責める気にもなれなかった。
彼の事が大切で、それ以外はどうでもよくて。自分の為にしてくれる事なら何でも嬉しかったし、罪悪感など馬鹿馬鹿しい。罪の意識に苦しむ彼を見るのはちょっと辛かったけど、それで自分に依存するなら願ったりだとすら思っていた。
矛盾に満ちたこの世界が崩壊するその時まで、今の状況を変えるつもりは無かった。確かに、自分は幸せだったのだ。
自分を取り囲むように張り巡らされた鉄格子を見て思う。これは自分を閉じこめる為の檻なのだろうか。
それとも、彼を繋ぎ留めておく為の枷なのだろうか。