覇二十の日!
「何だ」
ぎゅうと後ろから抱きつかれて、腰に腕を回される。
「呼んでみただけー」
「……そうか」
嬉しそうな声に文句を言う気になれず、曖昧に相槌を打つ。それでも彼には充分だったらしく、嬉しそうに頬ずりをされた。しばらくされるままになっていると、また声がする。
「なー覇王」
「呼んでみただけ、か」
「違うって」
「では、何の用だ」
「声が聞きたかっただけー」
「………そうか」
元々彼は陽気だけど、今日は普段にも増して上機嫌で、なんとなくこちらまで気分が浮き立つ。こうして漫然と過ごす時間は嫌いではない。
「覇王」
「今度は何だ」
「好きー」
「…………そう、か」
耳に響く声は柔らかで、ゆっくりと目を閉じて息を吐く。身体の前に置かれた手に自分のものを重ねると、細い指が絡められた。
「つまんない反応だな」
「他に返しようがないだろう」
「あるだろ」
「例えば」
「オレも好きだぜーとか」
彼の意見は成る程、と思わなくもなかったので、試しに実行してみる。
「俺も好きだぜー」
「…………」
無言の返事が、はっきりと不満を示していたので、少し首を傾げた。普段と口調が違うから、棒読みであったという自覚はあるとはいえ。
「言われた通りに言ったのだが」
「いや、それはそうなんだけどさ」
「心が込められていない、とでも」
「ああ……まあ、そうだな」
「分かった」
身体を反転させると、首筋に腕を絡めて引き寄せる。自分と似た顔は少し大人びていて、不思議な気分がした。
「好きだ」
言って軽く唇を触れ合わせると、切れ長の瞳が丸くなって、ぽつんと呟きが漏れる。
「……反則だろ」
「きちんと心を込めた」
「だからだよ」
目を隠すように当てた腕の下から、ほんのりと色付いた頬が見えた。不意に沸き上がった衝動のままに押し倒すと、耳元で聞いてみる。
「もう少し、心を込めてもいいか」
「そういう事は聞かなくていいんだ」
彼の言葉に、ふむ、と一つ頷いて。頬に音を立てて口付けた。