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小学生と少年の夜10時

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池袋駅から少し離れた公園のベンチに腰を下ろし、少年は携帯を眺める。
時刻は10時になろうかというところ。
周りにひと気はほとんどなく、時折、仲の良いカップルや仕事帰りのサラリーマンがが通り過ぎていく。
通り過ぎて行く人たちを横目で眺めながら、携帯が震えないかと意識を向け続ける。
五月過ぎから日課となった用事の待ち合わせ場所が今日はここなので、彼らから連絡が来るのを、公園に来るのひたすら待つ。
夏も近くなってきたこの街は暑く、じめじめと蒸しているが、公園は緑があるお陰か少しだけひんやりとしていてここで待つのは苦ではなかった。
新しい日課が始まってから、この公園はたまに利用する。
もともと大したことはない緑化のためだけに作られたような公園で、プレイスポットになることもなく昼間ももちろん夜も利用する人は少ない。
さらに、駅から、繁華街から離れているので、警察の方々も見落としているのか注視していないのかは分からないが見回りがめったにない。
ひと気がないこと、待ちやすい環境であることが待ち合わせ場所の条件だった。
なにしろ、彼らは目立つので。
用事が終わればあの目に付く帽子は外してしまうけれど、年齢も背格好もバラバラの男が十数人も溜まっていれば目立つ。
彼らは兎も角、自分が人目につくのは避けたかった。

そんなこんなで最低限の注意を周囲に向けながら、携帯をいじっている。

しばらくしない内に、子供が公園内に入ってきた。
小学校高学年だろうか、有名進学塾の青いカバンを背負っている。
彼はまっすぐ公園を通り過ぎずに、自分の2つ隣のベンチに座り、ポケットから携帯を手にぶら下げていたコンビニの袋からアイスを取り出すと、アイスを食べながら携帯をいじり始めた。
ここを利用するようになって初めての出来事だ。
塾帰りの寄り道といったところか、もしかしたらテストを終えたささやかな自分へのご褒美を楽しんでいるのかなと、いらぬ観察をしながら自分は移動するかどうかを考えた。
もし彼が長居するようなら彼らとの待ち合わせ場所には使えない。
まあ、連絡が入るまで待っても平気だろう。連絡が入る前に立ち去るかもしれないし、そうでなければそのときに待ち合わせ場所を変えればいいのだから。
そう考えた矢先、携帯が小刻みに動いた。
噂をすれば影、そう思って確認しようとすると、同時に近くから着信音が聞こえていた。
音の方に顔を向ければ、先ほどの子供がいた。子供も携帯画面から顔を上げアイスを齧ったままこちらを向く。
液晶画面を見直せば、ダラーズのメーリングリストを使ったメールだった。
あの子もダラーズなのかな。
少し嬉しいような気持ちで来たメールの内容を確認し削除していると、いつの間にかすぐ横に子供がきていた。
「お兄さんもダラーズ?」
嬉しそうな顔をして尋ねられた。声ははずんでいて期待に満ち溢れた調子だ。
隠すようなことではないので、そうだよ、と返事をするとぱぁっとその顔は声をかけられた時よりも明るくなる。
「ホントっ!? おれ、友達以外のダラーズの人はじめてみた!」
楽しそうにはしゃぐ姿を見て、笑ってしまう。
ダラーズの可愛いメンバーに会えたことに、ダラーズを快く思っていることに、そして春先にもこんなことがあったと思い出しながら。
「今日は、塾の帰り?」
「そう、テストの日だから遅くなったんだ。」
大変だったね、そう応えると、そんなことないんだと返された。
なんでも、ダラーズ内のコミュニティで授業や塾で解らないところを聞いているらしく、テストの出来が良かったらしい。
会ったことはないが以前塾に通っていた中学生がいたり教師がいたりするようで、なかなか有意義に活用しているようだ。
今、どのコミュニティにも掲示板にもダラーズの不穏な噂は絶えない。
そんな中で前と同じように利用している人たちがいると知って胸が温かくなる。
この子は最近のダラーズをどう思っているんだろうか、思わず聞いてしまう。
「ダラーズが怖くないの? いま色んな噂があるでしょ?」
「こわくないよ、だってダラーズだもん。ダラーズは何しててもいいんだろ、変なことをするやつらもいるけどその人たちを倒してる人たちもいるって聞くよ」
「おれは、その人たちを応援するよ。巻き込まれたくないからネットでだけ、だけど」
返ってきた答えは予想以上のものだった。
自己中心的で自分本位で利己的な答え。好きなように利用する。ネットでダラダラするだけで現実世界ではダラーズとして行動しない。
「すごくダラーズってかんじだね」
そうでしょ?と言わんばかりの笑顔向けてきたこの子に何かしてあげたくて口を開く。
「そう、最近荒し回ってる人たちって緑の靴紐つけてるって噂、知ってる? 集団でそうだったら近寄らない方がいいかもね」
何気なく呟きながらベンチから立ち上がる。携帯で時間を確認すれば10時を回っていた。予定の時刻だ。
「時間だいじょうぶ?」
あわてて時計をみた子供は少し長居しすぎたようで、すぐにバイバイと手を振りながら公園から駆け出して行った。
子供が視界から見えなくなったところで、また、携帯が震える。
今度はちゃんと待ち人のようだ。
ディスプレイに表示された名前を確かめてから電話に出る。
「青葉君? おつかれさま。どうだった?」
『特に問題はないですよ、帝人先輩。詳しいことはそっち着いてから話しますね』
スピーカーから聞こえる声は落ち着いていて、とても用事を済ませたような声ではなかったが、携帯のマイクが拾うテンションの高い彼らの声を聞けば首尾は上々のようだ。
通話を終えるとまたベンチに座る。
彼らが緑の靴紐をつけたグループを制裁している場所は、ここからそう遠くはない。何分もしない内に公園にたどり着くだろう。
そのあいだ、少し前まで起きていたことを目を瞑って反芻する。
静かで心地の良い公園、年齢など関係なくダラーズらしい子供、滞りなく行われたであろう制裁。
嬉しいことって重なるんだな、そう閉じたまぶたの上から静かに微笑む。
その顔はいつも通りの、それでいて今日一番の笑顔だった。
作品名:小学生と少年の夜10時 作家名:kana