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ヨット遊び(#07)

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学校近くの小川の河川敷で笹の小舟を千石は作り続けていて、亜久津はそれを何とはなしに眺めていた。流された小舟が10を越える頃になり、何をしているのかと尋ねれば、予想通りの答えが返ってきた。
「笹舟づくり」
 見れば分かると亜久津は答え、なぜそんなに作るのかと聞いた。
「暇だから」
 呆気ないほどの答えにそうかと亜久津は答え、再び沈黙した。
 笹の葉の数は見る見るうちに減り、とうとう一本の笹から葉が消えた。光合成ができなくなった笹はただ立ち枯れていくのかと亜久津は考えた。千石は迷いなく次の笹から葉をむしり取った。
 両端を折り、それぞれ二本の切れ目を入れ、できた輪を重ね合わせる。千石の手からは血が滲んでいる。
「もうやめろ」
「亜久津が構ってくれたらね」
 じゃあ一生そうして遊んでろ。反射的に出そうになった憎まれ口を噛み殺し、亜久津は千石の手を取り行くぞと言った。素直に千石は従い立ち上がる。
「意味ねえだろ、こんなことをしても」
「意味がないからいいんじゃないか」
 その感情が亜久津には少し分かってしまい、酷く嫌な気分になった。こういう共感はいらない。だが単調な動作の持つ酩酊効果は否定できない。
 握りしめた指の傷口を爪で嬲れば、痛いよと千石が幸せそうに笑う。見なければよかったと後悔しながら視線を背けた先、緑色の葉で流れが滞る取水口が映る。泡立つ水は清涼さとはほど遠い。
 なんでこんな奴が無視できないのかと、亜久津は心底不思議に思った。
作品名:ヨット遊び(#07) 作家名:1001