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11月の魔物

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ごうごうと、海が音を立てていた。ああ、恐ろしい音だ、と特にこれといってなんの意味もない感情を浮かべながら「可笑しな話です」と小柄な男が呟いた。浜辺には二人の男が立っていた。一人はチャコールグレイのタートルネックに黒いトレンコートをかっちりと着込んだ男で、男の体は酷く細身で、どちらかと言えば女性的な華奢な体系をしていた。きっちりと切りそろえられた黒い東洋人の髪のせいか、その小柄な男からは陰鬱な何かが漂っていた。その男の隣りに寄り添うように、大柄な男が一人、立っている。乳白色のような小柄な男と対称的な髪色をした男は襟ぐりの広く空いた薄い服を一枚に薄いストールを首に巻いているだけだった。

「貴方を見ているとこっちの耳が千切れそうですよ」と呆れ返ったよな目で大柄な男の服装を小柄な男が指摘をする。「この国の冬はもう少し先だよ」と大柄の男は遠くを眺めなら言うと、最小限の動作で自らの首に巻いていたストールを外し、そっと、小柄な男の肩にかけた。大柄な男の一連の行動を物珍しそうな目で小柄な男は眺め、ああ、と後悔の念に苛まれていた。この男は昨日の早朝に大柄な男の電話による呼び出しによってこの国を訪れていたのだが、来るべきではなかたのだと思っていたのだった。「わたしに優しくしないでください」そう言ってすぐに、貴方の国なんて嫌いです、と男は小さく付け足した。罪悪感からか伏し目がちに視線を泳がしていると、大柄な男は静かに自分よりも一回りも小さい男のためにしゃがみこみ、額にキスをすると満足したように笑った。何も知りたくはなかったのに、と小柄な男はこころの中で呟く。

「本当、可笑しな話だ」ともう一度小柄な男は与えられたストールの眺めながら吐き捨てるように呟いた。海はまだごうごうと低く鳴り響いている。男は恐れていたのだ。いつしか足下を救われ、目の前の海の飲まれやしないかと。いやな話だ、と首を振って小柄な男が歩き出すと、大柄な男は何も言わずにそれを追う様歩き出した。相変わらずごうごうと海な低く鳴り、浜辺にはすっかりと二人の足跡は消えていた。





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20091122  11月の魔物
作品名:11月の魔物 作家名:エン