11月の魔物
「貴方を見ているとこっちの耳が千切れそうですよ」と呆れ返ったよな目で大柄な男の服装を小柄な男が指摘をする。「この国の冬はもう少し先だよ」と大柄の男は遠くを眺めなら言うと、最小限の動作で自らの首に巻いていたストールを外し、そっと、小柄な男の肩にかけた。大柄な男の一連の行動を物珍しそうな目で小柄な男は眺め、ああ、と後悔の念に苛まれていた。この男は昨日の早朝に大柄な男の電話による呼び出しによってこの国を訪れていたのだが、来るべきではなかたのだと思っていたのだった。「わたしに優しくしないでください」そう言ってすぐに、貴方の国なんて嫌いです、と男は小さく付け足した。罪悪感からか伏し目がちに視線を泳がしていると、大柄な男は静かに自分よりも一回りも小さい男のためにしゃがみこみ、額にキスをすると満足したように笑った。何も知りたくはなかったのに、と小柄な男はこころの中で呟く。
「本当、可笑しな話だ」ともう一度小柄な男は与えられたストールの眺めながら吐き捨てるように呟いた。海はまだごうごうと低く鳴り響いている。男は恐れていたのだ。いつしか足下を救われ、目の前の海の飲まれやしないかと。いやな話だ、と首を振って小柄な男が歩き出すと、大柄な男は何も言わずにそれを追う様歩き出した。相変わらずごうごうと海な低く鳴り、浜辺にはすっかりと二人の足跡は消えていた。
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20091122 11月の魔物