それは狐が鳴いたからにございましょう
ケーンと、どこかで狐が鳴いた。
その日、甲府の真田屋敷に泊まっていた幸村は何となく寝つけずにいた。
昼間あれほど鍛錬にいそしみ、御館様に手合わせまでいただいたというのに眠れない。
仕方ないので月見酒でもしようかと障子を開けて縁側まででた。
果たしてソコには忍びがいた。己の忍びではなく、その友人と名乗った忍びだ。
黒い忍び装束に身を包み、顔には隈取を施した狐の仮面。
その足元には無数の血だまり。
「おや、真田の若様。お久しぶりにございます。」
仮面の忍びはニヤリと口角を持ち上げた。次の瞬間には音も無く幸村に近づきその顎を手に取った。
「若様、ご存知ですか?武田では、狐が鳴くと良くない事が起きるのですよ。」
手から、体から、むっとするような血臭が漂う。
「お主は何奴だ!」
幸村に手を振り払われた忍びは宙を翻り地面へと降り立った。
ケーン
忍びの口から、狐の声がした。
「これ以上武田に災いを呼ばぬよう、狐は姿を隠しましょう。」
ケーン
後には煌々とした月明かりと、幸村だけが残された。
猿飛佐助が任務中行方不明になったとの知らせが届いたのはその3日後であった。
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元ネタは高白斎記
「(意訳)先日、台所で事件があったけどそれは何日か前に茶畑で狐が鳴いたからである。by駒井高白斎」
駒井高白斎さんは呪術とか占いもする信玄公の実在した軍師です。
作品名:それは狐が鳴いたからにございましょう 作家名:てるてる