二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

月を欲しいと泣く子供

INDEX|1ページ/1ページ|

 

ねぇドタちんと席の横
折原臨也が頬杖ついて
ぼんやり眺める窓の外

猛暑続きの夏休み
なのに不毛な登校日
生徒はダレて教師はバテて
誰もが不毛な夏の日の
暑いばかりの休み時間

門田京平はこんな日も
手に放さない文庫本
一人眺めて大人しく
椅子に座って前を向き
折原臨也はその横で
窓際
外を眺めてる

「シズちゃんてさぁ」

まるで

「月夜の蟹だよねぇ。」

チラと目を上げ門田は見るが
当の臨也はぼんやりと
見るでもなしに窓の外
頬杖ついて喋ってる

「あぁ意味知らないかも知れないけどさぁ」
「月夜の蟹ってのは」
「頭足りない人の事」
「何でも蟹って満月の頃に脱皮するらしくてさぁ」
「そんでそう言われてるそうだよね」
「まぁ真偽の程は知らないけど」
「昔の人は上手い事言うよねぇ」

月夜の蟹ねぇ

自分で言って
フフフと笑う折原臨也

「シズちゃんに教えてあげたら意味解るかな?」
「解らないよねぇ」
「だってシズちゃん月夜の蟹だもん」
「何?月夜の蟹?そりゃ美味いのか?とか素で言いそう」
「あぁソレって面白そうだよねぇ」
「アハハ、なんか凄く想像つくよ」
「そしてソコで意味教えてあげたら」
「いつもの怒号だよねきっと」
「臨也ァァとか言っちゃって」
「いきなり机ブン投げてくれちゃって」
「イヤそれよりも教卓?教壇?教室の扉?」
「まぁ何でもいいけど」
「そんで後は俺を追いかけ回して」
「結局掴まえられずに怒って」
「歯ギリギリ言わせながら帰るんだよねぇ」
「あぁヤだ。目に浮かんじゃうよあの怒った顔」
「まるで鬼神だよねアレって」
「子共なら見ただけで泣いちゃうよね」

あぁ
そう言えば

折原臨也はぼんやりと
また呟いて言葉を紡ぐ

「cry for the moonていう言葉もあるよねぇ」
「無い物ねだり」
「『名月を取ってくれろと泣く子かな』ってのもあるけど」
「っていうか月に関しての訳だとさぁ」
「夏目先生が有名だよねぇ」
「I love youを『月が綺麗ですね』っての」
「あれってどうなの?」
「日本人の感覚だとそれで通じるって?」
「少なくともシズちゃんには絶対に伝わらないね」
「もしワザと闇夜に言ってみたとしてもさ」
「『ハァ?月出てねーだろ』とか言っちゃうフラグ」
「ハハ。すっごい想像つくと思わない?」

門田は横目で臨也を見るが
独り言のノリで喋っているので
あえて答える必要無しの判断で
そのまま黙って好きに喋らせておく

「The moon is not seen where the sun shinesってのもあるけど」
「似たようなのって日本にもあるよね」
「月の前の灯火」
「真昼の月」
「まぁ所詮」
「光り輝くものの前では月なんて」
「アッサリ隠されてしまうものだからさ」
「ホラ他にもあるじゃない」
「月にむら雲、花に風」
「上手く行かない事の方が多いって事だよね」
「月夜半分闇夜半分」
「月に十五の闇がある」
「ハハ。俺もいい気になってないでシズちゃんに気をつけよ」
「まぁ俺が闇討ちなんかでやられはしないけどさ」

真昼の
陽炎のたつ校庭から少しだけ
温い風が吹いて来て
臨也の黒髪を揺らし
ついでに門田の本のページも繰ってゆく

「ねぇドタちんさぁ」
「俺の言ってる事聞いてる?」
「まぁ俺の知識って別に雑学だから」
「覚え無くても生活には支障なんか無いし」
「聞かなくてもいいけどね」
「でも中には」
「覚えとくと使えるものもあるんだよ?」
「ねぇ」
「ちなみさぁ」
「ナンか覚えてる諺言ってみなよ?」
「月を使った諺、ホラ」
「何か答えてよドタちん?」

俺は
ドタチンじゃねぇ
門田だと溜息をつき
このクラス一面倒な同級生に
渋々付き合ってやるハメになる門田は
ボソリと

「・・・月とスッポン。」



プッと
吹き出したあと
クスクスクス

折原臨也が
白い半袖の制服のシャツの肩を震わせて笑い
ひとしきり笑った後で
それは満足に彼お得意の意地悪な笑みで言う

「大正解。ドタちんなら絶対ソレ言ってくれると思った。」
「なら訊くな。」
「だって確認したくなるのが人間てものだろ?」
「じゃあ満足だろう。もう黙れ。」
「えぇ?何それ俺に命令するんだ?」
「もう授業が始まる。」

門田がそう言った次の瞬間にベルが鳴り
生徒達の溜息と共にまた
かったるい時間が始まる

門田の席から見える
折原臨也の斜め後ろからの横顔は
一見何もいつもと変わりなく
だが
気をつけて見ればしばしば
ぼんやりと視線が止まる一点がある

主の居ない
静雄の席

平和島静雄は今日の登校日
遠方の親戚の法事だか何だかで
許可を取っての欠席なのだ

ったく
しょうがねぇなとつく溜息を
ツンツンと
後ろから遮る指先は
後ろの席の岸谷新羅
何だ授業始まってるぞと
チラと目線を後ろへ泳がせると
童顔の眼鏡の奥の丸い瞳が
それは楽しそうに瞬いて
コレと目くばせで渡される小さな紙片

開いて見れば
そこにはきちんと箇条書き
さっきの臨也の引用が
寸分漏らさず書かれてあって
※付きの注釈が



※つまりは
この順序を見れば解る事だけど
臨也は
頭の悪い静雄君を愛してて
だけど
静雄君が居ないから無いものねだりで
結局
自分達は月と太陽
静雄君が居ないと臨也は自分も輝けなくて
ちっとも気分もノらないし何も上手く行かなくて
世の中良い事も悪い事も半々だけど
やっぱり静雄君が追いかけてくれなきゃ
凄くつまらなくて
いつもと今日を比べたら
月とスッポン

まぁそういう事なんだと僕は理解するよ
どう?
僕の解釈って完璧じゃない?※




「・・・どう、ってお前・・・」

凄い曲解もいいとこじゃねぇのかこれと
門田は口の中で呟いて
いやでも

ぼんやり
シャーペン回ししながら静雄の空席を見ている
折原臨也の姿を見る

いつもの生命力が
まるで少し薄れたかのような
真昼の月のように淡い
そんな
姿




「ねぇ、どうソレ?」

焦れたのか
後ろの席から小声でせっつく
お節介な医者の卵に門田は頷く

「でしょ?臨也ってあぁ見えて」

凄く

言ったところで教師から
コラそこ喋るなと注意され
気付いた臨也がニヤリと振り向く
その嫌味たっぷりの笑みは
完璧ないつもの微笑み

だが

門田は教師に謝りながら思う

きっと
さっきの姿が
彼本来の姿なのだと

月と太陽

太陽が無ければ
月は輝く事が無い

何となく早く太陽が戻ってくれればいいのにと
そんな事をふと思った後で校庭から
今度は凄まじい熱風が吹き込んで
畜生
太陽の野郎
しばらく出て来なくていいと
門田は
吹き出す首の汗を拭いながら溜息をつく

夏の太陽は
しかし

そんな生徒達の気を知ってか知らずか
真昼の月もまるで見せない強烈な光で

真夏の校庭に


照りつけて






シズちゃん
早く
帰って来ればいいのに

呟く声を




その熱風ごと




誰にも聞こえないうち




消し去って




いった


























作品名:月を欲しいと泣く子供 作家名:cotton