例えきみに届かなくても
彼らしく愛らしい飾りつけをされた、けれどどこか厳かな姿のそれ。
「それ、持っていくの?」
声をかければ、見つかったかと苦々しく呟いて少し照れた彼に自分の軽率を悟った。聞き咎めた皆の視線が彼の手に集まり、まるで飢えた野犬の様に取り囲んでしまったから。
「ヨウスケ、それは俺へのケーキじゃないのか? 半分以上ガキ共に盗られちまった本日の主役様への献上品第二段じゃあないのか?」
「ユゥジのコレステロールを心配して僕らが減らしてあげたんじゃないか。中年太りはあっさり来るんだから気をつけなよ太ったロッカーは格好悪いよ」
「ちっげえよオチャヅケが食っちまいそうで危なかったから俺が急いで片付けたんじゃねえか。ぼさっとしてたユゥジが悪ぃよ」
「ミーなんて一口もイートしてないよ!」
彼の作る料理はとても美味しい。ご飯は勿論お菓子も美味しい。なので仕方ないといえなくもないけれど、男の子がケーキを持った男の子に群がるさまの説明に果たしてなるのかは疑問だ。
中心となってしまった彼はいつもの舌打ちをして、片腕で壊れないようにがっしりガードをして逆の腕を構えた。その眼光に皆が息を飲んで同じく腰を低くした。
「これは渡さない。どうしてもと言うなら俺を倒せ」
しんと冷えた真剣な空気に一瞬寒気がしたけれど、まあ、要するに、ケーキだ。
「ヨウスケ。それ、どうするつもりだったの?」
何とも言えない事態に思わず切り出す。それを聞けば皆が引く事を私は判っていた。一瞬和らいだ瞳で私を見る彼は、やっぱり少し戸惑って、やっぱり少し照れていた。
「…………、………ディバイザーに……」
取り囲む野犬達が目を見開いて、落とした腰から力を抜いた。久しぶりに聞いただろう元相棒の名を、大切そうに口にしたユゥジ君の隣、不思議そうにヒロ君が首を傾げる。
「どういうこと?」
「……あいつらの誕生日、俺達と一緒だから。ユゥジが今日ならディバイザーも今日だ」
だから、持っていくのだと。口下手な彼がそれ以上言わなくても皆には通じるから。
いたたまれなくなったのか、また一つ舌打ちをしてその場を去ろうとする彼の肩をユゥジ君が優しく叩く。
「……そっか。なあ、俺も行っていいかな」
見上げた顔は、自分がケーキを貰った時よりも優しくて嬉しそうに笑っていて。彼も私もつられて笑った。皆でいこうと誰ともなく言い出して、私達が勝手に作った彼らの眠る場所へと向かう。
消えてしまったあのこ達に、お墓なんて本来はない。食べる事の出来ない死者に料理を捧げるなんて無駄だ。あのこ達はきっとそういっただろう。それでも彼はやっぱり、作るのだ。
有難うな、と彼にだけ聞こえる声で呟いたのだろうユゥジ君の声は、柔らかくて切なくて本当に素敵だった。
作品名:例えきみに届かなくても 作家名:コウジ