霧の虚構
一体どうしてこうなった。
疑問と恐怖とで唇を震わす綱吉は、緩くなったウエストを必死に押さえて首を振る。
しかし、無理矢理に寛げられたファスナーの向こうに広がる神秘を狙うルビー色の瞳に敵うはずもなく、綱吉の膝は彼の手により左右に割られていった。
「素直になりなさいボンゴレ」
愉快げに口角を吊り上げる骸の指が綱吉のそれを引き剥がしにかかる。手の甲に爪を立てるような余裕などあるはずもない。だが開いたファスナーの下には、既に下着の生地が覗いてしまっていた。
「おや、今日は白ですか。汚すには丁度良い」
独り言のように呟かれた言葉に、何か冷たいものが背筋を走る。
これまで下着の色や柄など特に気にした試しもない綱吉だが、この時ばかりはどういうわけか、柄くらいは考えてくれば良かったなどと思ってしまった。こんな風に人目に晒されることが分かっていれば死ぬ気で選んできたものを!
ぐ、と震えに震えていた唇を白くなるまで噛み締めていると、不意に骸の指から力が抜け、やがて離れたではないか。
「……?」
見上げた先にある顔を窺えば、骸は眉尻を下げて小さく笑っている。
少し意地悪が過ぎましたね。そんなか細い、彼らしくない一言を共に綱吉の髪をなぜながら漏らす。
「骸……っ」
ゆっくりと後退し、立ち上がる骸を追おうと綱吉は咄嗟に手を伸ばした。その細い指は彼の制服の裾を摘むに留まり、完全な制止には至らない。
かける言葉も引き留める手段も失った綱吉は、ただただ、その場にうずくまることしか出来なかった。
「それでもボンゴレ10代目ですか、沢田綱吉」
鼓膜を震わす甘いテノールに顔を擡げるより早く、強く腕を引かれた。 自身を叱咤するようなオッドアイに射抜かれるまま膝を張って立ち上がれば、声と同じ、甘ったるい笑みが視界を埋める。
じわりと滲むような熱が、綱吉の胸の中に広がっていく。その根拠は分からない。けれど、この全身を包み込んでいく安心感は、説明のしようがないとは言え、確かに存在していた。
「むく、ろ…」
そろり。近付く指と指とが絡み合い、漸くその体温が伝わってきたであろうその瞬間。不可解
な布擦れの音に肩が跳ねた。今の音は一体何だ。そう恐る恐る足元に目を向けると、綱吉の上気し始めていた目元から一気に血が引いた。
「クフフ…目標のためなら一歩も二歩も先を見据える必要があるんですよ」
先ほどまで泣いてしまうのではないかと思ったほど悲しげに眉を下げていたはずの骸は、この上なく嬉しそうな色を浮かべ、綱吉の下肢を指差した。
「今日の下着は、白地にライオン…なるほど斬新ですね。しかし梟もお勧めですよ」
可もなく不可もなく。そんな視線を真っ直ぐ股間に浴びながら、綱吉は赤い顔を更に火照らせ、果てにはうっすらと瞳に膜を張り、力いっぱい叫んだ。
「そんな柄、死んでもごめんだよ!!」
fin.